管理員の水まき業務に激怒する理事長

つい先年、17時以降は待機時間だから、その分の給料を管理員に支払えとする判決が出た。つまり、所定時間外であってもまさかのときに備えて、服装もふだんどおりにして待機していなければならない管理員のつらい立場を斟酌しんしゃくしての判決である。

夕方以降の時間外労働が問題視されているようだが、早朝の公園清掃や自転車置き場整理、巡回サービスも同じだ。もちろん、植栽への水やりも同じで、夏場なら毎日、早朝に行なうものと相場が決まっている。

水まき
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蟹江理事長が管理員室で言い募る愚痴のひとつに、前管理員の水まきに関することがあった。

「あのバカ(理事長は前任者をこう呼んでいた)は暑い盛りの真っ昼間午後3時半から水をまきおる。なんでそんな時間にやるんやて聞いたら、それくらいからやらんと勤務時間内に終わらん、とこうや。そんなもん、水が“沸騰”して植物をあかんようにしてしまうに決まっとるやないか」

しかし、私に言わせれば、植物が満足するようたっぷりと水をやるには、ゆうに3時間は必要となる。定時の17時に終わらせるためには午後2時にはスタートしなければならない。だが、真っ昼間からの水まきは、蟹江理事長も言うように時間の設定そのものが間違っている。

やはり夏場の水やりは、早朝の7時くらいか夕刻の7時くらいに行なわなければならない。そうすると、朝の水やりは午前10時ごろに終わり、夕刻の水やりは午後10時ごろに終わる。完全に時間外労働をしなければ間に合わない。

とはいえ、管理会社との間で締結された「標準管理委託契約」の内容を熟知している理事長は、その時間帯に仕事をさせるのは契約違反であることを知っている。おそらくこれまでもそうした部分で管理員ともめたことが少なくなかったのであろう。

「自動散水装置」の設置を提案する理事長の“真意”

だからこそ、彼は強いて命ずることはしない。管理組合が要求したのではなく、あくまでも管理員本人が自主的に行なうようにもっていくのだ。そして、そのとき彼は“交換条件”として自動散水装置の話を持ち出す。

「わしゃ、どっちでも構わんが、あんたが望むなら、自動散水装置をつけたってもええと思うとる。全域は必要ないとしても、7割方でも装置をつけたら楽になるやろ。それで1時間か2時間助かるんやったら、儲けもんや」

たしかに理事長の言うとおりであった。蟹江理事長の提案をフロントマン・富田に打診すると、なんとも煮え切らない答えが返ってきた。

「南野さん、理事長になにかをお願いするときは、考えてモノ言わなあきませんよ。装置をつければサボれる思たはるんかもしれませんけど、仮に散水装置をつけたとして、その余った3時間、なにに使わはるつもりなんです? あの理事長のことですから、必ずその時間を別のことに使えと言いますよ。それでもいいんですか?」