在宅勤務では長時間労働をしていても、その実態が見えづらい。ノンフィクションライターの飯島裕子さんは「労働時間ではなく、定められた職務を評価するジョブ型雇用はテレワークと相性がいい。しかしそこには“隠れ過重労働”を引き起こすという罠がある」という――。

※本稿は、飯島裕子『ルポ コロナ禍で追いつめられる女性たち』(光文社新書)の一部を再編集したものです。

家で夜に一生懸命働く疲れた若い女性
写真=iStock.com/Virojt Changyencham
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子育て中と比べれば「ありがたい」と思っていたが…

由紀恵さん(53歳)は新卒で外資系IT企業A社に入社後、30年が経つベテランエンジニアだ。コロナ第1波の2020年3月初めから現在まで在宅勤務が続いている。

当初、由紀恵さんの勤める会社は、情報産業をリードする存在として率先してテレワーク推進を打ち出したというが、情報漏えいやコンピュータウイルス感染の恐れがあるとして、非正規は在宅不可だったという。その後、組合などからの要求があり、派遣社員を含め、パソコンが貸与される形で、約9割がテレワークに移行した。在宅の条件は9時から18時までの間連絡が取れる状態であること。

「昔、子育て中、早く帰宅するかわりに家に持ち帰って仕事をしていた時代がありました。夜中に資料を作って自宅のプリンターで出力したり……。完全なサービス残業だった。あのころに比べれば今回のテレワークは環境も整っていてありがたいという気持ちがありました」

24時間、365日体制で働くエンジニアも

ところがテレワークを始めて数カ月経つと、通勤している時より長時間拘束されているような感覚を持つようになったという。

「在宅だからいいだろうとお客様との会議が夜20時からセットされることもあって。お客様相手なので『勤務時間は◯時から◯時までです』と言いづらく、結果的に長時間労働になってしまうことが増えています」

特に若手エンジニアなど職位が低い人ほど、長時間労働に陥る傾向があるという。終業時間後はメールを見ないことになっていてもついつい見てしまい、客先に連絡したり、依頼に応じてしまう。しかしメールを勝手に見たのは自分なので残業は申請しづらい。テレワーク体制により、24時間、365日体制でエンドレスに仕事をしてしまうエンジニアも出てきているという。