9月21日、就任間もない野田首相は米オバマ大統領と首脳会談を行った。(PANA=写真)

9月21日、就任間もない野田首相は米オバマ大統領と首脳会談を行った。(PANA=写真)

日本もアメリカもまったく同じ動きを示している。それが何を意味しているかといえば、20世紀を支配していた経済制御システムが終焉を迎えたということだ。

公共投資で有効需要が創出されると、それに対応して雇用が発生し、労働者に賃金が支払われ、その賃金が消費を押し上げる。金利を下げると金を借りやすくなるから、設備投資や個人消費などの需要が喚起される――といったケインズ経済学の方程式がことごとく当てはまらなくなった。つまり経済の根本的な原則が変わってしまったのである。

なぜ経済原則が変わったのか。一つの理由は、私が1980年代後半に提唱したボーダレス経済の出現である。

ケインズ経済学は閉鎖経済における「質量保存の法則」を前提に、貨幣と金利と雇用と消費の関係を説いている。しかし各国経済が複雑に相互依存しているボーダレス経済下では、ニューディール政策でいくら国内に有効需要を創出しても、資金を供給しても、効かない。国境を越えて人、カネ、モノ(企業)、情報が移動してしまうからである。企業はいとも簡単に国境を飛び越えて、需要のある場所に投資し、需要のあるところに雇用をつくり出す。さらには、つくった製品を国内に輸出するから、逆に国内雇用が圧迫されてしまうことになる。

もう一つ、低金利や量的緩和などの金融政策が機能しない理由は、産業革命以降の「労働者=消費者」という図式が崩れてきたからだ。日本でもリタイアした世代が個人消費のかなりの部分を引っ張っている。

アメリカでもサブプライム問題でひっくり返ったのは中流以下の低所得者層で、中堅企業の部課長クラスから上の層はほとんど困っていない。アッパー層は3つ持っている家の一つを売ればいい、という感じなのだ。

資産リッチは金利を下げれば収入が減るし、資金供給は自分の資産再配分でつくり出せる。財務状況に余裕のある企業や個人は金利をゼロにしたら余計に身構えてしまう。余計なお金は借りずに、自分の蓄えの範囲でやっていこうとする。

この「身構える」というのが、新しい経済原理を理解するキーワードとなる。オバマプランのおかげで将来の増税間違いなしと言われる状況で、国債発行の上限を突破しそうになって国家がデフォルト間際にまで追い込まれ、アメリカ人は生まれて初めて米国債の格下げまで経験した。するとお金に困っていない人たちでも「何かヤバそうだ」と身構えて、お金を使わなくなる。予定していたヨーロッパ旅行をキャンセルするとか、冬場に3回行っていたスキー旅行を2回にするとか、皆がちょっとずつ削る。個人消費がGDPの70%近い先進国経済ではこの「身構える」心理が経済実勢に多大な影響を与えるのだ。