ホンダの「スーパーカブ」は世界で一番売れたバイクだ。なぜそんなに売れたのか。経営学者の楠木建さんは「スーパーカブは1957年の発売から現在まで、技術や構造をそのまま維持している。つまり余計な機能を加えていない。そこがすごい」という。独立研究家の山口周さんとの共著『「仕事ができる」とはどういうことか?』(宝島社新書)より一部を抜粋する――。(第1回)
立体商標登録が決まったホンダ「スーパーカブ」の現行モデル
写真=時事通信フォト
立体商標登録が決まったホンダ「スーパーカブ」の現行モデル=2014年5月26日、東京都港区

「役に立つ」より「意味がある」モノに価値がある

【山口周】スキルがここまでもてはやされてきたのは、「時代の要請」という側面があったと思います。端的に言えば「スキルが金になった」ということです。それは「役に立つ」ということが価値になったからですね。

ところが昨今では「役に立つ」ということがそもそも求められなくなってきている。「役に立つこと」から「意味があること」に価値の源泉がシフトしていると思うんです。「役に立つ・役に立たない」「意味がある・意味がない」という二つの軸を組み合わせて世の中で売られているサービスや商品を整理してみると面白いことがわかります。

「役に立つモノ」よりも「意味があるモノ」のほうが高い値段で売られているんですね。例えば自動車の世界では、日本車のほとんどは「役に立つけど意味がない」に整理されます。

人も荷物もちゃんと積めて静かで快適で燃費もよい――つまり移動手段としてはもちろん「役に立つ」わけですが、一方で、そのクルマがあることで人生の豊かさや充実感が得られるというような「意味的価値」はありません。

「アコードのない人生なんて考えられない」とか「プリメーラのハンドルを握っていると人生の手応えを感じる」という人ってあんまりいないわけです。一方で、例えばポルシェやBMWといった自動車は「役に立つうえに意味もある」ということになります。

価格で言うと標準的な日本車の3~5倍くらいの価格で飛ぶように売れているわけですが、では3~5倍も役に立つのかというとそんなことはない。「役に立つ」という点で日本車と高級外車を比較してもほとんど差はないわけです。

じゃあ何にそれだけのプレミアムを払っているのかというと「意味的価値」なんですね。