最大の壁は国民の消費マインド

しかし、こうした新しい経済システムを確立するためには、どうしても超えなければならない壁があります。それは国民のマインドです。

輸出主導型経済の場合、基本的な需要は海外にありますから、日本国内の事情はあまり影響しません。海外の需要さえうまく取り込めれば、経済は回っていきますから、輸出主導型経済は比較的容易に実現できます。実際、発展途上国が経済成長を目指して採用する戦略のほとんどは製造業の強化を通じた輸出振興策です。

しかし消費主導型経済において需要を作り出すのは自国民ですから、国内の消費者が積極的にお金を使う環境を作れなければ消費主導型経済は実現できません。

個人消費を活発にするには、企業の生産性を向上させ、賃金を引き上げるとともに、可能な限り貧困に陥る人をなくす努力が必要です。人間1人が消費できる財やサービスには限度がありますから、貧困率が高いと低所得者の消費が伸びず、消費には悪影響が及びます。諸外国を見ても、徹底的な弱肉強食で、貧困率が高く推移する一方で、極めて大きなビジネスチャンスが存在する米国は例外中の例外で、それ以外の国が消費を活発にするためには、貧困をできるだけ減らす努力が必要となります。

消費主導型経済の主役となるサービス業で高い生産性を実現したり、高度な金融サービスを確立したりするためには、国民が高いITスキルを身につけなければなりません。そのためには、貧困率の低下と同じく、大学の無償化など教育政策を充実させることが重要となります。

他者に寛容な社会にすることが大事

そして何よりも大事なのは、多様性があり、他者に寛容な社会を構築することです。

加谷珪一『中国経済の属国ニッポン マスコミが言わない隣国の支配戦略』(幻冬舎新書)
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生活を楽しむことを否定したり、他人を差別したり誹謗中傷したりする人が多い社会では、決して個人消費は拡大しません。新しいことへのチャレンジが難しかったり、外国から多くの人材がやってくることを忌避したりする風潮も消費経済には完全にマイナスとなります。

経済学において消費を増やす絶対的な方法というものは存在しておらず、国民のマインドに大きく依存するというのが現実です。この点において日本社会あるいは日本経済には多くの課題があると考えるべきでしょう。

日本国内の社会風潮と対中国政策というのは一見すると無関係のようですが、実は水面下ですべてつながっているのです。高度で豊かな消費社会を作るという目の前の努力をしっかりと積み重ねれば、それこそが、もっとも効果的な対中戦略となるはずです。

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