逮捕だけでなく、運営会社の口座も凍結

こうして中国当局は、香港でのデモ行為や報道を制限する際の法的根拠を持たせるため、2020年6月に「国家安全維持法(国安法)」を導入、即座に施行した。ただ、同法は恣意しい的に人々を検挙できるとみられる条文も多い。

国安法導入により、香港の民主化運動は徐々に勢いが低下。ライ氏自身も昨年8月、「外国勢力と結びつき、国家の安全に危害を加えた」として、国安法違反で逮捕された。同じ日には、日本でもよく知られる女性民主派リーダー、アグネス・チョウ(周庭、24)氏も同法違反で逮捕されている。

当局の「リンゴ」に対する締めつけは、創業者の拘束にとどまらなかった。中国政府は今年6月14日、国安法の条項「違反者に対する資産凍結」を初めて適用。「リンゴ」を発刊するメディア企業「壱傳媒(Next Digital)」の株を凍結するとともに、関連3社の銀行口座が凍結された。

壱傳媒株の市場価値は3億香港ドル(約45億円)相当とされるが、こうした資産が一切動かせなくなった。さらに同17日には「リンゴ」の幹部5人も国安法違反の疑いで当局に逮捕されたことで事業継続を断念せざるを得なくなり、6月24日をもって廃刊した。

これと同時に、同社の過去記事が閲覧できるウェブサイトも、関連のSNS等も全て閉鎖されている。

100万人規模の市民が英国へ逃れるのか

今回の「リンゴ」廃刊は、単なるいち新聞社の閉鎖にとどまらない問題だ。

民主化を求める人々の精神的な支柱ともなっていただけに、同紙の廃刊を「香港の自由の終焉」と見る向きも多い。今の香港は、アグネス・チョウ氏らをはじめとする民主化勢力への迫害だけでなく、一般民衆に対し「密告の奨励」が現実のものとなっている。友人や家族の間で、むやみに政権批判をしようものなら、密告されていきなり逮捕される可能性もあるわけだ。

数年前まで「普通選挙の実施を!」と自由を求めていたのが、逆に香港が「監視国家への仲間入り」をするという異常な状況に陥っている。

「こんな香港にはいられない」と、新天地を求める人々が香港を捨てて他国を目指す動きも顕著となってきた。

香港をかつて150年余り統治していた英国政府は、「多くの香港の友人たちを助けるため」と、返還以前の出生者を中心に、英国への移住に道を開くと明言。今後5年間のうちに香港からやってくる移民者数を30万~100万人と試算し、欧州連合(EU)離脱後の新たな労働力としても期待している。