会社が早期に「キャリア自立」を支援すれば“不幸”は生まれない

企業が生き残るためには業態の転換や新規事業への進出は避けられない。だからといって古いスキルを持つ人材を外に放出するのは経営者の責任放棄である。

④のように新規事業に必要なスキルを修得させる職種転換研修を実施し、活躍の場を提供していくべきだろう。それでも「今の年齢で新しいスキルを覚えるのはきつい」と言う社員もいるだろう。そんな人を使ってくれる部署やグループ企業があれば再配置すればよいが、それでも難しい場合は、緊急避難的なリストラの希望退職者募集ではなく常設の「早期退職優遇制度」によって自発的に応募できる仕組みを用意しておくことも必要だ。

この仕組みの効用について建設関連会社の人事部長はこう語る。

「一時的に大量の社員を退職させる希望退職はリスクが大きい。引き留めても優秀社員の流出は避けられないし、残った社員のモチベーションも悪化させる。対象になった社員も『半年以内に辞めるか、辞めないか決めろ』と言われても困る。恒常的な早期退職優遇制度があれば、辞めたいと思ったときに辞められる。実際に在籍中に転職の準備をして転職する人もいれば、長年計画していた起業にチャレンジする人もいる。あるいは故郷に戻って知人の会社で働くという人もいる」

会社が早期に「キャリア自立」を支援すれば、個々の社員が人生の生き方を自ら選択するきっかけにもなるだろう。

じつは1990年代のリストラでは、希望退職募集を実施する前に、グループ会社や関連会社にお願いし、転籍出向先を探すのが一般的だった。当時の人事部員は極力解雇する人を少なくするために駆け回ったものだが、そのグループ会社や関連会社も引き取る余裕がなくなり、いつの間にかそういうこともしなくなった。

社員を放り出す経営者にSDGsのバッジをつける資格はない

一方、コロナ禍で「雇用シェア」という新しい動きも出ている。人員過剰な企業の社員を人手不足の企業に一時的にレンタルする「在籍出向」が中心であるが、メディアでもJALやANAの雇用シェアが注目を浴びている。

じつは取材してわかったことは、異業種への出向ということで、当初はノウハウもなく企業間のマッチングが難しいことだった。

しかし、徐々にノウハウが蓄積されつつあり、政府系の産業雇用安定センターを中心に民間の人材サービス会社も雇用シェアに乗り出している。

このノウハウは当然「転籍出向」にも活かせるはずだ。やむをえず離職を余儀なくされる社員が発生した場合、転籍出向という形で新しい企業で1年間働き、そこでの給与を出向元が6割支払い、2年目に転籍する。これによって失業なき労働移動を実現する道もあるのではないか。

以上がこれまでのリストラの歴史を振り返ったとき、筆者が考える「不幸を生まないリストラ」の5カ条だ。

リストラしないことに越したことはないが、少なくともこのすべてをやりきることが企業に今、求められているのではないか。

ブームとなっている企業に社会的役割を求める国連のSDGs(持続可能な開発目標)の8番目は「すべての人のための生産的な完全雇用およびディーセント・ワーク(働きがいのある人間らしい仕事)の推進」を目指すことである。

突然、社員を放り出すような企業の経営者にSDGsのバッジをつける資格はないだろう。

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