世界がパンデミックに突入すると、アメリカで1ドルが消費されるたびにその半分の約50セントがアマゾンに転がり込むようになった。オンラインでの商品検索のうち、約70%はアマゾンで発生している。

この場合、ユーザーは自分がどの商品を探し求めているのか具体的にわからない状態で検索しているのだ。自分のほしいものがわかっている場合、約80%のユーザーがアマゾンで品定めを始める。

検索バーは会員データを入手するツール

それだけでも大変なことだが、1億5,000万人以上が有料会員サービス、アマゾンプライムの会員になっていることも付け加えておこう。プライムは、客寄せの役割だけでなく、迅速な配送や映像・音楽のストリーミング配信といった特典や付加価値でアマゾンのプラットフォーム全体でのユーザー囲い込みを強化している。また、プライム会員の購入額は、非会員の3.5倍に達する。

アマゾンプライムの荷物を住宅の玄関に届ける配達員
写真=iStock.com/Daria Nipot
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さらに、プライムは、アマゾンが収集するデータの中核をなすものでもあり、顧客のニーズや行動を分単位で読み解く鍵となっている。「商品検索をアマゾンから始めるユーザーの数では、日本が世界で一番多い」と明かすのは、日本でアマゾンのファッション事業責任者を務めるジェームズ・ピーターズだ。「その結果、消費者が何を求めているのか、良質なデータが手に入る」という。

つまり、アマゾンの検索バーの役割は、会員がアマゾンの取扱商品を見つける手段にとどまらないのである。アマゾンにとっては、どんな商品を揃えればいいのか、リアルタイムに情報を吸い上げる市場調査ツールでもあるのだ。

なぜ純利益率わずか1%の食品スーパーを買収したのか

単刀直入に言えば、アマゾンを小売業者と見るのをやめて、データ・技術・イノベーションの企業と捉えれば、一見わかりにくい同社の戦略的な動きの多くが、完全に筋の通ったものであることがわかる。

たとえば、2017年のホール・フーズ(アメリカ、イギリス、カナダを中心に約270店舗を展開する食料品スーパーマーケットチェーン)の買収はどうか。買収当時、多くの業界関係者は真意がつかめず、訝しがった。食料品分野にアマゾンの食指が動いたのはなぜか。そもそも過去の例から見て純利益率1%しか出せない分野である(誤植ではない。本当に1%である)。

私見では、食料品の価値うんぬんではなく、食料品販売が生み出すデータの価値にヒントがあるのだ。私の言わんとすることを理解していただくため、今度スーパーマーケットに行ったら、次のことを覚えておいてほしい。