子どもの頃の後輩から手紙をもらったら…

【松浦】4歳年下の、ある後輩がいるんです。彼にも野地さんの本を送りました。

彼は子どもの頃、可愛がって、一緒に遊んでいた後輩です。ずいぶんと会っていなかったのですが、ある時、「弥太郎兄さんお元気ですか」って、突然、手紙をもらったんです。

「弥太郎兄さんの活躍をいろんなところで見てます。だから手紙を書かせていただきました」

それから文通が始まるわけです。発信元は北海道でした。東京に来たら、もしくは僕が北海道に行ったら飯でも食おう、とやりとりしていて……。

それで、僕もうっかりわからなかったのですが、住所が旭川なんです。グーグルマップで住所を調べたら何もないところで、おかしいなあと思って拡大していったら刑務所でした。

——刑務所の中から手紙をもらっていたんですね。

【松浦】はい。僕はあらためて手紙を出しました。

「悪かった。何も知らずに飯食おうとか、世間の話をしちゃったけど、君がそこにいることは調べてみたらわかったんだ」

そうしたら、彼から返事がきました。

「僕は道を外れてしまい、今はこういうところにいる。無期懲役です。しかし、自分は世間に誤解されている、罪を着せられている」

そういう孤独な世界の中にいる後輩と私は今も文通を続けています。言葉で言うのは簡単だけれども、精神を正常に保つのさえ過酷な環境でしょう。そこにずっといなくてはいけない男なんです、彼は。

文筆家の松浦弥太郎さん
文筆家の松浦弥太郎さん

刑務作業でカイゼンをやろうと

ただ、一方で、彼は非常な読書家になりました。法律書から何から何でも読んでいる。本が好きだというから、僕はいつも本を送ってあげているのですが、『トヨタ物語』と、これもまた野地さんが書いた『高倉健ラストインタヴューズ』(プレジデント社)をセットで送ったんです。彼はすごく感動して、感想をくれました。

「やっぱり働くということは、何かを発明することなんだ」と。

彼は刑務所のなかでは模範囚でモノを作っているんですよ。そして、この本を読んで、「やっぱりカイゼンだ」と言って、旗を振っている。トヨタ生産方式だ、カイゼンだとやっているようなんです。自分はリーダー格だから、自分が看守に監視されてふてくされて仕事をしていてはいけない。もっと工夫したり、もっと観察をして、もっといい仕事の方法を自分で発明していく。

そういうことが手紙のなかに書いてあって……。でも、こういう話はまずいのかなあ。

——いえ、トヨタの人たちにもちゃんと伝えます。