海外では新型コロナウイルスのワクチン接種が進んでいる。すでに国民の半数近くが接種しているイタリア在住のジャーナリスト新津隆夫さんも、妻子とともに現地でワクチン接種を済ませた。予約や接種には何の混乱もなかったという。現地からの報告をお届けする――。
ミラノの最先端エリアに設けられたワクチンセンター。羽根帽子をかぶった山岳部隊OBが案内してくれる。
写真=新津隆夫
ミラノの最先端エリアに設けられたワクチンセンター。羽根帽子をかぶった山岳部隊OBが案内してくれる。

予定より3週間遅れ、でも予約はスムーズ

昨年末に発表されたスケジュールに遅れること約3週間。イタリアでは4月22日から、60歳から69歳までの新型コロナウイルスワクチンの予約受付が開始された。

日本のようにワクチン接種券が送られてくるわけではなく、こういった情報は政府広報やニュースを注視し続けて得るしかない。必要な社会サービスを受けるためには自ら動かなければならない、いわゆる「申請主義」のイタリアと、必要なものはなんでも口元までスプーンで運んでくれる日本との大きな違いを感じる。

一方で、ワクチンの予約そのものはとてもスムーズだった。イタリアではオンラインや電話のほか、郵便、さらにはICカード化された健康保険証で郵便局の端末から行うという、4通りの方法が選べる。日本では電話予約をしようとしてもなかなかつながらず、システムの不備が指摘されていたが、イタリアではそのような声はあまり聞かれない。筆者はオンラインでもっとも近い5月10日を1回目の接種日に選び、確認メールを受け取った。

予約方法は簡単で、個人納税者番号(codice fiscale)と健康保険証番号を入力するだけ。接種場所はミラノ郊外の居住地の市役所近くに作られた、臨時のワクチン・センターだった。「これで一安心だね」と家族に伝えた翌日、妻の元に電話があった。

妻は安倍晋三元首相の持病としても知られる難病「潰瘍性大腸炎」を患っている。電話の主はその担当医だった。いわく、「ワクチン接種の優先リストに名前を入れておいたから、なるべく早く接種するように」とのこと。妻は一昨年乳がんの手術をしたし、潰瘍性大腸炎は20歳の頃からずっと治療を続けている。そのため、優先かどうかはさておき、ワクチンそのものを接種していいのかどうか医師に相談しようと考えていたところだった。