福島・名古屋間の路線を可能にしたグループのネットワーク

もう一つ地続きで路線網を拡大することでネットワーク効果もあります。うちは高速バスで福島・郡山こおりやまから名古屋まで結ぶ路線を持っていて、これがわりと好評なんです。なぜ好評かといえば、宇都宮にも停車するようにしたからです。

モダンなバス
写真=iStock.com/Cylonphoto
※写真はイメージです

それができるのも、うちが傘下に福島交通に加えて、宇都宮に地盤がある関東自動車を買収していたからです。県境をまたいで、グループのネットワークをつくり宇都宮からも客を乗せられるようになり、収益も増大しました。

コロナ前の指標になりますが、バス会社の成長株と言われていたのが実は高速バス事業でした。高速バスは、全国で年間1億900万人が利用すると言われていて、国内線の飛行機よりも利用客が多かったんです。バスタ新宿ができたときに話題になっていたのは、それだけ多くのニーズがあったからです。こうした努力で労働生産性が改善すると、福利厚生や雇用の安定にもつながります。

これもよく報道されていましたが、高速バスの運転手はブラック体質な事業所で働いている場合もあります。その結果、不眠状態で運転することになり、乗客の命に直結するような事故が起きてしまっていました。バスを運行しないと収益を上げられないが、肝心の運転手に替えがいないという企業が少なからずあったんです。

うちではそういうことはありません。適度に休みをとってもらいながら、運転手の健康を守り、かつ安定的な給与を出すには強い経営体質になっていないとダメなんです。

現場の従業員に対するリスペクトを経営陣が共有している

人手不足社会では採用力とリテンション力が成長力を規定します。労働生産性が高い会社のほうが待遇は良くなります。EBITDAが高いというのは、すなわち設備投資力があるということですから、より安全でエコで運転しやすい新しいバスやITシステムを導入できます。

最近ではバスロケーションシステムの導入を行い、さらに最先端のAIを搭載したダイナミックルーティングや自動運転走行の実験にも取り組んでいます。コロナ禍でもこうした未来投資は止めていません。また、私たちが経営やマネジメントのプロであるのと同様に、バス運転手もプロフェッショナルの集団です。

ですので、彼らに対する敬意を強く持っています。私たちは経営を見ているけど、では、お前たちがハンドルを握って運転してみろよと言われても、それはまったくできない。無事故、無違反を続けているベテラン運転手の技術はないし、地方の道だってよく知りません。彼らには彼らの仕事があって私たちにはできないことをやって、利益を上げてくれています。

地域にとってのエッセンシャルワーカーは彼ら彼女らなんです。プロフェッショナルである彼らの仕事を軽くみるような態度、発言をしないというのは、その根本的価値観に立脚すれば当然のこととして、経営者、マネージャー陣で徹底的に意思共有できています。