新人の時代も同様です。私がリコーに入社してまず配属されたのはファクシミリの開発部隊です。そこは外部から中途入社した人が大部分だったので、先輩にリコー流を押しつけられることなく、比較的自由に、いろいろなことを教わりながら育つことができました。

モデムとはどんな機能を持ったものなのか、データ圧縮とはどんなことをしているのか、プロトコルというのは“挨拶”みたいなものだ……等々、デジタル時代の初期に、根本的なことを知ることができたのです。

ところが最近の新入社員は、理科系の場合、研究室出身でレベルは相当高いのですが、人数が多いせいもあり、入社してすぐ、まとまった教育も受けないまま現場に送られてしまいます。すると、配属先ごとにバラバラな教え方をするし、ソフトウエアの分野では自分が学んだ古いやり方を仕込んでしまう先輩もいる。新人の教育に、当たり外れが生じてしまう傾向がありました。

そこで、私は最初の導入教育はきちんとやらなければと考え、新人は1年間、仕事から完全隔離して徹底的に教育するようにしたのです。最新のソフト開発技法を外部の専門講師から学ばせました。それを毎年実施しています。4~5年経てば最初の“卒業生たち”が、新人のよき相談相手、指導者として育ち、さらに設計の核となってくれるという好循環が生まれつつあります。

この制度を導入したのも、前述したとおり、自分が入社したての頃、いい勉強をする機会に幸いたっぷり恵まれたという経験があったからこそです。


私は、比較的早い時期から製品開発のプロジェクトリーダーを任されました。30歳前後から20人程度のチームを率い、成功体験も少なくありませんでした。

しかし、リーダーのあり方を学ぶのは難しいものです。

その時期、学校の教員として多くの子供たちと接していた家内からは、こう注意されたことがあります。「人は褒めないと成長しない」。だが、それはなかなか実行できませんでした。