2020年2月に亡くなった野球評論家の野村克也さんは、息子の克則さんが小さかったとき、「王さんとパパと、どっちが偉いの?」と質問されたことがある。そのとき野村さんはどう答えたか。自身が当時を振り返って解説する——。(第1回/全2回)

※本稿は、野村克也『弱い男』(星海社新書)の一部を再編集したものです。

開幕戦開始前のメンバー表交換時、談笑するソフトバンク・王貞治監督(右)と楽天・野村克也監督(ヤフードーム)
写真=時事通信フォト
開幕戦開始前のメンバー表交換時、談笑するソフトバンク・王貞治監督(右)と楽天・野村克也監督=2008年3月20日、福岡県

子育ては沙知代に任せっきりだった

克則が生まれた当時、私はまだ現役のプロ野球選手だった。

南海時代は監督も兼務していたし、南海からロッテ、そして西武に移籍したときは、現役最晩年ということもあって、「もうひと花咲かせてやる」の思いで、がむしゃらに野球に取り組んでいた。そんな時期にあったから、子育てについては沙知代に任せっきりだった。

一見すると「放任主義」のように見えるかもしれないが、要は仕事にかまけて「ほったらかし」というのが実情だった。プロ野球の世界では、私のような一部の例外を除けば、たいていはアマチュア時代に輝かしい実績を引っ提げてプロ入りする逸材ばかりである。

だから、入団当初からあれこれと口出しをせずに、まずは基礎体力作りを中心に据えて、「投げる」「打つ」という基本的なことは、本人の好きなようにやらせた方がいい。この時期にヘンに口出しをして萎縮させてしまうよりはずっといいからだ。

しかし、だからと言って何もアドバイスもせずに、ただ黙って見ているだけではその選手は伸びない。入団直後の初々しい時期だからこそ、基本の大切さ、ルールの重要性、集団生活のあり方などは徹底的に教え込む必要がある。それがきちんとなされていないと、最低限のルールやマナーを身につけられない選手となってしまうのだ。