2016年に放送されたテレビドラマ『逃げるは恥だが役に立つ(逃げ恥)』(TBS系)は、「それは、好きの搾取です!」というセリフで話題を集めた。1月2日、その続編が放送されたが、そこでの「(育児を)サポートって何?」というセリフが議論を呼んでいる。家族社会学者の永田夏来さんは「2つのセリフは前提条件がまったく異なる」と指摘する――。

「超特大ファンタジー」に1万6000超の「いいね」

私ごとで恐縮ですが、これは1月2日(土)に放送されたTBS系列のドラマ『逃げるは恥だが役に立つ ガンバレ人類! 新春スペシャル‼』を見終わった直後の私のツイートです。家族社会学者として若者の妊娠出産を調査分析し続けている身としては、それほどたいしたことを言っているとは思っていなかったのですが、これがなんと1万6000もの「いいね」をいただいてしまいました。いわゆるバズったという状況です。

いったいなぜ、このツイートがバズったのか。これを考えることを通じて、『逃げ恥』というドラマが置かれている状況、もっといえば今回『逃げ恥』のテーマとなった妊娠出産が置かれている社会の状況について、今回考えてみようと思います。

妊娠出産は「強すぎて多すぎる敵」に囲まれている

逃げるは恥だが役に立つ』は、月刊マンガ誌「Kiss(キス)」(講談社)で連載した海野つなみさんの同名マンガが原作で、2016年にテレビドラマ化されました。「職なし」「彼氏なし」「居場所なし」の主人公・森山みくりが、「恋愛経験なし」のサラリーマン・津崎平匡と契約結婚することから始まる物語です。2人を新垣結衣さんと星野源さんが演じ、少しずつ本当の恋愛関係に発展していく「むずキュン」と呼ばれる展開に加え、登場人物のセリフが身近な社会問題について鋭く指摘していることから、大人気となりました。

本作においても、これまでと同じように、妊娠出産に関するリアルな現状や日本社会の理不尽さがグイグイと描かれていきます。職場での「妊娠順番」ルール、マタニティーハラスメント、無痛分娩、つわりの苦しさ、選択的夫婦別姓、育児休業の取得、妊娠出産に対する男性の主体性、職場の上司による「劣化」発言とルッキズム、LGBTQなどなど。いずれも大きくて深刻な、それでいて多くの人の身に覚えがあるもので、よくぞこれらの問題に立ち入ったなと拍手したくなるものばかりです。

しかし、それを物語として成り立たせるため、そしてエンターテインメントとして楽しめるようにするため、若干無理をしたのかもしれません。いうなれば、ちょっと「敵」が強すぎ、そして多すぎました。

もちろん、「強すぎて多すぎる敵に囲まれている」という状況は、妊娠出産が持つ社会的課題そのものです。だからこそ、その「敵」をやっつけるためには、主人公に強大な力を授けるしかなくなるのでしょう。それが冒頭のツイートで説明した「金持ってる+正規雇用+仲間に恵まれている+家族が頼りになる+パートナーと話が通じる」という「超特大ファンタジー」です。