セオリー通りの戦略で対抗するソフトバンク

同社はahamoの発表から約2週間後、20Gバイトで月額2980円の新プラン「SoftBank on LINE」を発表した。SoftBank on LINEは、基本的にドコモのahamoと同じプランと考えてよく、月額料金だけでなく、1回5分までの無料通話が含まれている。申し込みがネット限定であることなど、他の項目についてもahamoとほぼ同じ内容だ。

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写真=iStock.com/Sundry Photography
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ahamoとの最大の違いは、LINEを利用する場合については一部が使い放題になることである。ソフトバンクグループは傘下のヤフーとLINEの経営統合を2021年3月に控えており、統合後はソフトバンクの携帯通信サービスとヤフーやLINEのネットサービスを一体運用できる。LINEの使い放題については、詳細はまだ決まっていないが、LINEを多用する利用者にとって朗報であることは間違いない。

では3社のプランを経営の観点から見た場合、どのような解釈ができるだろうか。経営学の一般論として大幅な値引きを行う場合にはシェアを拡大しなければ意味がない。しかも通信会社というのは典型的な設備産業なので人件費比率が極端に低く、料金引き下げは収益の悪化に直結する。

ドコモは業界最大手であり、しかもNTTの完全子会社になった。他の2社と比較すると圧倒的に体力があり、大胆な値下げによって他社から顧客を奪うという今回の戦略は合理的と言って良いだろう。

ドコモの場合、高齢の利用者が多く若年層に弱いという弱点があった。ネット限定の割安プランを使って、KDDIあるいはソフトバンクから年齢層が低い顧客を奪うことを想定しているはずだ。

当然のことながらソフトバンクは顧客の流出を防ぐ必要があり、ドコモとほぼ同じプランを用意し、かつ若年層が魅力を感じるLINEの使い放題を打ち出すことで、囲い込みを図る算段である。両社のプランは経営戦略的にはまさに定石といってよいものであり、現時点でドコモとソフトバンクは拮抗した状態にある。

最安プランを打ち出したKDDIの欠点

そうなると、にわかに注目を集めてくるのがKDDIである。

KDDIはドコモの発表から約1カ月が経過した2021年1月13日、新料金プラン「povo(ポヴォ)」を発表した。povoは容量20Gで月額2480円となっており、ahamoやSoftBank on LINEより500円も安い。一見するとKDDIがより大胆な価格戦略を打ち出したように見えるが、実はそうではない。

確かに月額料金は安く設定されているが、この料金の中には、ドコモとソフトバンクが提供している5分までの無料通話サービスが含まれていない。つまりpovoの利用者は電話をかけた分だけ料金が徴収され、それを回避するためには1回5分までのかけ放題サービス(500円)を追加しなければならない。

フタを開けて見れば、KDDIの料金体系もドコモやソフトバンクと同じ内容ということになるが、筆者は3社が横並びになるという図式は成立しないと考えている。その理由は、最終的にはほぼ同じサービス内容とはいえ、KDDIだけが料金体系が複雑であり、一部の利用者からの支持が得られない恐れがあるからである。

あまり通話しない利用者からすれば、povoは魅力的に映るだろうし、利用者の選択肢が広がることは市場の多様性という観点からも歓迎すべきことではある。だが、今回の料金引き下げは政治主導によるものであり、市場原理だけが通用するとは限らない。

政府による引き下げ要請の是非は別にして、政府が問題視していたのは料金の高さに加え、その分かりにくさにあった。実際、引き下げ前の料金体系では、各社はキャンペーン価格ばかりを強調し、本当のところいくらの料金になるのか簡単には分からない仕組みであった。