自分自身も「問題のあるシステム」の一部だ

数多くの国際機関や企業と社会変革プロジェクトで協働した社会システムデザイナーのデイヴィッド・ストローは、何か複雑な問題を解決しようとするとき、まず必要なのは「自分自身が、解決しようとしている問題を引き起こすシステムの一部なのだ」ということに気づくことだと指摘しています。いかなる問題であれ、個々のプレイヤーがどのようにしてシステムに関わり、そして無意識のうちに意図せざる問題の発生に関わっているのかを意識することなしにシステムの改善がもたらされることはありません。なぜなら、そのシステムの中で、参加しているプレイヤーがもっとも自由にコントロールできるものは、システムそのものでも、あるいはシステムに参加している他者でもなく、自分自身でしかないからです。

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写真=iStock.com/Xavier Arnau
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現在の世界にはさまざまな問題が残存しており、多くの人が「政府が悪い、企業が悪い、マスコミが悪い、バカな奴が悪い」と他者を攻撃していますが、このような攻撃の先にやってくるのは「風通しの良い高原社会」とは真逆の、不寛容で、頑迷で、攻撃的で、排他的な、まさに「暗く淀んだ谷間」でしかありません。

世の中を悪くしている原因は「自分自身」

もし、いま本書を読んでいるあなたが、世の中は悪い方向に動いていると感じているのであれば、その原因をつくっているのは他者でも政府でも企業でもなく、間違いなく自分自身なのだということをまず認識する必要があります。世界は小さなリーダーシップの積み重ねで大きく変化します。私たちのうち、ある一定の人たちの行動がほんの少しずつ、このような方向へとシフトすることで、100年後の世界は劇的に変化することになるでしょう。

日本では市民主導による社会革命を一度も経験せずにここまで来てしまったために、多くの人々は「そのうち政府に素晴らしいリーダーが出てきて変革を主導してくれるだろう」とぼんやり夢想しているだけで、自ら主体的に関わる、実存主義の言葉でいうところの「アンガージュマン」しようとする人は少ないように思います。社会を変革するのは行政や企業のリーダーの仕事であって、毎日の些事に煩わされている自分のような小市民が社会変革の主導者となることなど考えられないし、そもそも考える必要もない、という考え方です。