第4の疑問:実用性の低さ

私は数年前、当時勤務していた会社で社用車としてあったBMW i3というEVを使ったことがある。とても軽快に走る車で、右足の踏み加減で自由自在に加減速でき、都内の一般道を走る分にはガソリン車より運転を楽しめる車であった。

山崎明『マツダがBMWを超える日』(講談社+α新書)
山崎明『マツダがBMWを超える日』(講談社+α新書)

会社の充電器で充電し、その電気の範囲内で行動する分には申し分ない車だった。しかし安心して走行できる距離は120km程度であり、勤務地から55kmほど離れた自宅まで往復するのはギリギリで、さらに遠くまで行くには出先での充電が必須だった。最近はより航続距離の長いEVも発売され、実際の使用でも400km程度走れる車種もあるようだが。

問題は充電にかかる時間とそれで充電できる電気の量だ。一般的に普及している急速充電スタンドは1回の充電時間が最大30分に制限されている。自動車専門誌のテストでは大型EVの場合、30分充電してもそれで走れる距離は100kmにも満たないケースが多いようだ。

■都市居住者やグランドツーリングに向かない欠点

欧米メーカーから発売されている大型で高性能なEVは、航続距離こそ長いが、いざバッテリーが空になったあとはきわめて不便なものとなるのだ。またEVは、スピードを出せば出すほど電費が急速に悪化するので、高性能EVの性能を楽しんでしまうと電気を一気に消費する。日本よりはるかに車の流れが速く、走行距離も長い欧州ではこの問題は深刻だろう。

そのうえ、自宅に充電設備を設置できて夜間充電できるユーザーはいいが、そうでなければ一般充電スタンドに頼らざるを得ず、30分充電しても100km以下しか走れなければ日常使いでも支障をきたすだろう。

マンションの駐車場、特に機械式の場合は充電設備を設置するのは不可能か、可能でも多くのコストがかかるだろう。EVは自宅に充電設備がある人の短距離シティコミューターには向いているが、都市居住者やグランドツーリングにはまったく向いていないのだ。