明日死ぬとわかっていても、するのが養生

ついでにいうと、生まれつき努力が好きな人っているんですね。生まれつきというのは、本当に格差の元凶です。いいところに生まれて、本当に苦労のくの字も知らずに、楽々と一生を送る人もいれば、右を見たら転ぶ、左を見ても打たれるという運の悪い人もいる。だから、世の中が矛盾していることは覚悟し、その中で少しでも努力が報われたり、ラッキーなことがあったりしたら心から喜べばいいんです。

でもね、時代が大変なときに、大勢の人に対して「こうしたほういがいい」「ああしたほうがいい」という説教のような話はしたくない。人が自分のことについて語ると、たいてい自慢話になるものです。若いときの苦労や失敗談だって、結局、屈折した自慢話みたいなものですよね。

作家 五木寛之氏
撮影=尾藤能暢
作家 五木寛之氏

――五木さんも努力はされている?

【五木】もう80歳を超すと、肉体的な面での困難が出てくるわけです。まっすぐ立ってるつもりでも、ふらふらする。夜中に何度もトイレに起きる。歯医者によると、歯もだいたい50年しかもたないようにできていると言います。

だから、それを70年、80年維持して、ある程度長く使えるようにするためには、目に見えない努力のようなものがいっぱいあるわけなんです。でも、その努力を努力と思わないで面白がってやるというのが、僕の言う「養生」ということなんです。健康法は努力が必要だけど、養生法は道楽だ、趣味だって言っています。

――養生をテーマにした本も出されていますね。

【五木】いまも、1日でも耳が遠くならないようにいろいろ工夫してやってるんですよ。新聞も毎日自分で読めるように、視力を衰えさせない工夫もしています。でもそれは努力というより面白いからやっているんです。「明日死ぬとわかっていても、するのが養生」というのも、一つの覚悟ですから。

(聞き手・構成=斎藤哲也)
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