▼自宅に持ち帰った機密情報。もし漏らしてしまったらどうする

実際のところ、焦る必要はない

テレワークの普及によって、クラウド上で会社の情報を管理するケースが増えた。そこで起きるトラブルとして挙げられるのが情報漏洩だ。もし、自分が何らかの理由で会社の機密情報を外部に漏らしてしまったら、自己防衛をする手段はあるのだろうか。

「仮に機密情報を漏らしても、会社側が不利になる他の機密情報をまだ隠し持っていると思わせることが肝要です」(野澤氏)

野澤氏によると、企業の機密情報を漏洩したからといって、すぐに厳しい処分を下される可能性はかなり低いという。

「機密漏洩や社内不祥事が起きたとき、その事実が社外に知られるほうが会社にとって大損害というケースは多々あります。その場合、閑職に追いやったり、地方に“栄転”させることは今でもあります。これは、“秘密を公にしない限りクビにはならない”という暗黙の了解による司法取引みたいなもの。握っている情報が“人質”のように機能していれば、ノホホンと定年まで居残れます。日本の労働法制は、解雇だけでなく賠償額の予約契約や給与からの損害金天引き等についても規制が厳しいのです」

最悪クビになった場合、何とかして被害を最小限に抑えたい。

「会社を辞めるときに、公序良俗違反等の法的問題は残りますが、秘密保持と損害賠償請求権不行使をワンセットにした和解を模索するのは有効な手段の1つです。加えて、未払い残業代を武器にするワザがある。最近の民法改正で残業代請求の時効期間は2年から3年に延長されました。いざとなったら戦える状態を維持しつつ裁判沙汰だけは防ぎたいという“不拡大方針”を会社側に伝え、できれば未払い残業代請求権をずっと留保したまま穏便に退職するのです。このやり方は、同業他社に転職したり、同業種で独立開業をする場合には特に有効な方法です」

自己防衛の城を築いておこう

会社の機密情報を実際に漏らしたと判断され、法的責任を問われるリスクが高い情報とは具体的にどのようなものなのだろうか。

「1つ目は通常の機密情報、つまり知的財産、会社ノウハウに関する情報。2つ目は顧客の個人情報、特に業者(裏の)が扱ってくれそうな名簿などは価値が高くなります。3つ目は犯罪・不祥事に関する情報、社内でのセクハラやパワハラなどもここに含まれます。ただ、不動産業や人材派遣業等では、広告事務管理料・システム登録料等といった法令上の根拠が乏しい手数料を会社の特殊ノウハウに従って多数の顧客から徴収しているケースが多いので、複合的性質を有する情報もあります」

同じ情報でありながら、失敗原因の側面と武器使用の側面があるので、情報廃棄だけでなく、いざとなったら戦えるよう証拠収集にも努める必要がある。

「会社のコピー機、特に通信機器接続の複合機を使うのは別の失敗につながります。会社経費の無断流用だけでなく、証拠収集の履歴を相手に教えているようなもの。重要証拠は個人使用のスマホで撮影し、撮影日時がわかるように自宅のPCに別保存しておくのです」

情報の取捨選択こそが生き残るためのキモである事実は、いつの時代でも変わらない。