「大きな全体」が壊れることで「パーツ」が輝き出す

ある種の開き直りですね。僕も最初はコロナによって引き起こされた未曽有の状況に戸惑いがありましたが、みんなが「新型コロナ感染が拡大したせいで……」とネガティブに反応している状況に、だんだん嫌気がさしてきた。このネガティブな状況をポジティブに転化するのがアーティストじゃないか、コロナに対して前向きな答えを出してやると腹をくくりました。

コロナによる移動や外出の規制でグローバルな人の流れは大幅に減りました。僕はこれは一時的なものではなく、これまでグローバル化に振れ過ぎたものがローカルに戻ってくる大きな流れの一環だと思っています。

グローバル化の弊害はすべてが均一化していくということです。もともと個性を持ったパーツが集まって全体ができているのに、全体が大きくなりすぎてパーツが見えなくなってきていた。そうなるとアートもファッションもデザインも全部似てきて面白くなくなるんです。「大きな全体」が壊れることによって、それぞれにパーツがまた輝きだすのではないかと思います。今回、リモートでの制作活動を余儀なくされて、そんなことを考えていました。

パトロンに頼らなくても活動できる時代になった

確かにコロナで仕事が減り、収入が減るという現実はありますし、先は見えません。でも一方で、世界的なアートの消費は下がっていないんです。実際、展覧会などは全部キャンセルになりましたが、手元にあった作品はこの間にも売れていきました。

アーティストは弱者ではありません。いまのアート作品には証券的な側面もあり、市場での「売買行為」を通じて価値が上がり、それがアーティストに直接還元されます。パトロンに頼らなくてもアーティストが自ら発信できるフラットな世界になりました。

そんななかで日本ではまだ黎明期にあるといえるパブリックアートには可能性しか感じません。アート界ではパブリックアートはリスクがあるからやるなという人もいますが、古いヒエラルキーのなかに位置付けられないものだからこそ、挑戦して新しい価値を創造していきたいと思っています。

「新宿は東京らしさが凝縮されたような街。世界中から人が集まる場所でありながらローカルな個性が根付いている。そうした対極性を自分なりに表現したい」
撮影=澁谷高晴
「新宿は東京らしさが凝縮されたような街。世界中から人が集まる場所でありながらローカルな個性が根付いている。そうした対極性を自分なりに表現したい」
(構成=プレジデント書籍編集部)
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