香港で罪を犯した人は、「いずれもこの法律が適用される」

香港の主権がイギリスから中国に返還されたのは、今から23年前の1997年7月1日。6月30日から7月1日をまたいで盛大な返還式典が行われ、当時、私は自分の目で歴史的なイベントを見届けたくて現地に入っていた。大雨だったと記憶しているが、祖国復帰を祝う街の喧騒は凄まじく、イギリス領時代の最後の統治者であるクリストファー・パッテン総督がにぎにぎしく船で香港を離れるシーンが目に焼き付いている。

ジャッキー・チェン氏ら芸能関係者は、香港国家安全維持法を支持する声明を出した。
ジャッキー・チェン氏ら芸能関係者は、香港国家安全維持法を支持する声明を出した。(GettyImages=写真)

あれから丸23年を目前にした2020年6月30日、香港国家安全維持法(中華人民共和国香港特別行政区国家安全維持法)が施行された。19年から返還以来最大級の抗議デモが長期にわたって頻発し、民主化を求める声が高まるとともに香港の社会不安が増大した。そうした情勢を受けて中国政府は、香港の統制を強化して反政府的な活動を取り締まるために20年5月28日に同法を制定する方針を採択。20年6月30日に全国人民代表大会(全人代。中国の国会に当たる)の常務委員会において全会一致で可決されて、同日夜11時に、香港政府が施行した。

香港国家安全維持法では「国家分裂」「政権転覆」「テロ活動」「外国勢力と結託して国家の安全に危害を加える」の4つを処罰対象として規定している。いずれも最高刑は終身刑だ。

しかも適用されるのは中国人ばかりではない。香港で同法が規定する罪を犯した人は、「いずれもこの法律が適用される」と条文にある。さらに香港の永住権を持たない人が香港以外で行った犯罪行為にも同法が適用される。つまり、外国人が香港以外で中国政府の意に沿わない言動、たとえばチベットや新疆ウイグルの人権問題や台湾独立問題などで中国を批判しただけでも「国家分裂」や「政権転覆」を図ったとして摘発の対象になりうるのだ。

同法によれば、国家の安全に関わる特定事件については陪審抜きの非公開裁判が可能。事件や訴追手続きを中国本土に引き継ぐこともできる。

また「国家安全維持公署」という治安機関の設置を同法は規定していて、中国政府は早速、香港にこれを開設した。国家安全維持公署は中国本土の治安当局の出先機関であり、香港当局の取り締まりを監督・指導するほか、重大案件については自ら対処する強力な権限を有する。香港在駐の国際機関やNGO、報道機関に対する管理も強化していくという。