AIで致命的欠陥をカバー

極めて単純化すると、共産主義は2つの致命的な欠陥を有していた。

第1の欠陥は、「モラル・ハザード」である。働いても働かなくても結果が同じであれば、人間は働かなくなるのが常である。第二に、共産主義の中央エリート官僚に関して言えば、需要の読み違いが相次いだ。市場というわけのわからない、いかがわしいものよりも、共産主義エリートのほうが、能力が高いはずだったが、完全な期待外れに終わった。

これらの2つの致命的欠陥から、共産主義は一敗地にまみれ、歴史はいったん終わったかのように見えた。それではなぜ、一度崩壊した共産主義が息を吹き返したのか?

第1の問題点は、個人のプライバシーを犠牲にした徹底的な監視社会を築くことで克服された。中国では街中のいたるところに監視カメラが設置されており、その総数は2億台にのぼるともみられている。中国政府はAIを活用して既に14億人の顔認証を完成しており、中国人のマナーは劇的に改善している。また、中国ではアリババグループが展開する、「芝麻信用(セサミ・クレジット)」というシステム上で、個人の信用スコアが厳しく管理されている。過去に不正などを働いた人間は、ローン金利の水準設定や、果ては結婚にいたるまで、人生のあらゆる局面で不利益を被ることになる。つまり、監視社会を構築することによって「モラルハザードが起きて人々が怠けた」という欠陥が、克服されたのである。

「共産主義エリートの能力が市場よりも劣っていた」ことによる、需要の読み違いという第二の問題点は、ビッグデータの活用などによって克服された。中国ではデータは基本的に国家に帰属する。西側諸国では、データが民間部門に帰属するのと対照的である。もし国家が一元的にデータを管理することができれば、ビッグデータを解析すれば、先行きの需要を市場よりも正確に予想することが可能になるかもしれない。

一言で言えば、AIによる顔認証や、ビッグデータの活用といった、テクノロジーの進化が、共産主義の致命的な2つの欠陥を是正し、この結果、ブレアが指摘した通り、一度敗退した共産主義がもう一回息を吹き返すことになったのである。