台風19号被害で再評価された「八ッ場ダム」

「ダム中止」の流れを作ったのは、2009年に政権を奪取した民主党政権の大仕事の一つだ。当時の国土交通大臣だった前原誠司さんが大号令をかけた。この大号令によって見直しとなったダム計画がいくつもある。

しかし「ダム中止」の象徴だった利根川水系の八ッ場ダムについては、中止の大号令だけがとどろき、その後八ッ場ダムによらない治水計画というものは進まなかった。

国土交通省の役人も地元も、これまで何十年もかけて進めてきた八ッ場ダム計画なので、そう簡単に計画を変えることなどしない。役人は政治家に対して露骨な反対運動はしないが、だからといって政治家である前原さんが言う通りの八ッ場ダム建設に代わる別の計画を自発的に作ることもない。

地元住民たちは、ダムを作れ! と民主党政権、前原大臣の中止決定に猛反対する。

このような状況の中、結局、八ッ場ダム中止の政治的号令だけがとどろいたのみで、ダムによらない治水計画はできあがらなかった。八ッ場ダムが必要だという社会情勢に押されて、最終的には八ッ場ダムの建設計画が再開されることになった。行政の裏付けのない政治決断は最後は覆されるのである。そして皮肉にも、2019年の台風19号の大豪雨の際には、この八ッ場ダムが雨を貯め込んだため、流域の水害が限定的だったとも言われている。八ッ場ダム中止の政治決断は間違っていたと評価されてしまった。

もちろん、八ッ場ダムがたまたま試験湛水(水を抜いて貯める)中で、通常の状態よりもカラカラだったので、通常時よりも水を多く貯めることができたのだという意見もある。これは通常時では豪雨の水を貯めきれず、緊急放流をせざるを得なかったという評価のようだが、この点は専門家による検証に委ねざるを得ない。

(略)