会社勤め人にとって、年々重くなる税負担。しかし、なんと住民税も所得税も、ゼロにする方法があるというではないか。本当にサラリーマンが「無税の人」になれるのか、じっくり検証してみた。

【選択その1】副業の事業化

図1:副業による「無税」のしくみ
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図1:副業による「無税」のしくみ

サラリーマンでありながら37年間所得税も住民税も払っていない著者が、そのカラクリを明かした『「無税」入門』という本が話題になっている。「納税は国民の義務」なのは知っていても、年々負担は重くなり、有無を言わさずに源泉徴収されてしまう税金は、日本のサラリーマンにとって癪のタネである。

『「無税」入門』のカラクリはシンプルだ。著者は、サラリーマンとして会社から給料(年収500万円)をもらう一方で、趣味で行ってきたイラスト販売を事業として申請。年間売り上げは50万円程度だが、そこに賃貸住宅の家賃や光熱費、通信費を必要経費として計上し事業所得を赤字にする。給与所得の黒字と事業所得の赤字を損益通算すると、サラリーマンとして納めた所得税と住民税が確定申告で還付されるというものだ(図(1)参照)。

ただ、注意すべき点は、副業が税務署に雑所得と判断されれば、給与所得の黒字と損益通算できなくなること(図(2)参照)。あくまでも「イラスト販売は事業である」と主張しなければならないのだ。しかし、そんなにうまくいくものだろうか? 専門家に意見を聞いてみた。

図2:どんな副業なら、本業と損益通産できる「事業所得」と認められるか
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図2:どんな副業なら、本業と損益通産できる「事業所得」と認められるか

「この本で紹介されている無税のしくみは昔から知られていた。ただ公言すると税務署に目を付けられるから、多くの人がひそかにやっていたのでは」

と税務、財務、経営に関するコンサルティンググループMMIの代表取締役であり、税理士の高橋節男氏は言う。

「この著者は、年収がそれほど高くなく、税務署のお目こぼしの範囲内だったから税務調査が来なかっただけでしょう。調査が入れば経費を厳しく査定されて税金ゼロにはならなかったかもしれません。万が一、租税回避と認定されれば過去に遡って修正申告させられる」

では、サラリーマンのイラスト販売は本当に事業所得として認められるのか。

「雑所得と判断される可能性はあるけれど、『本業はイラストレーターだけど、売れないので仕方なく会社員で食っている』と強く主張すれば税務署も事業と認めざるをえないでしょうね」

判断の分かれ目は、いわば「ストーリー性」であると高橋氏は指摘する。

「37年間売れなくても、何か芸術など趣味的な業種であるイラストレーターや作家や漫画家を名乗れば税務署も納得する可能性がある。でも物品販売だとしたら、なぜ37年間も売れない商品を扱っているのかと突っ込まれるでしょう」

結局、線引きは曖昧なのだ。この本の著者と同じことをしても、誰もが事業として認められて無税になるわけではない、と高橋氏は語る。

「サラリーマンが副業を事業としてやるなら、まずは儲けてきちんと税金を払うことを考えたほうがいい。事業で赤字を出すということは損をしているということで、どのみち長続きはしませんよ」