ひとり暮らしの老親は、どんなお金の使い方をしているか。ライターの田中亜紀子さんは、認知症になった父親がデイサービスに通う間に、家の中を探索した。そこで見つけたものとは——。

※本稿は、田中 亜紀子『お父さんは認知症』(中央公論新社)の一部を、再編集したものです。

テレビの前に座る、90歳男性を後ろからみる
写真=iStock.com/RapidEye
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預貯金や保険に何か恐ろしいことが起こっているかも

「それはすでにお口座にはなく国庫に納められています」

なんですと? ほんのぽっちりの額だけど、なぜ私のお金が国庫に。頭にきて、「そんなのひどくないですか? いくら少なくても、こちらの口座に預金が残っているのは知らなかったんです」と、電話の向こうの銀行の方に言い返した。

父が家に戻り、看護師のいる小規模多機能に通所しながら生活し、日々が少しずつ新しい秩序をもって動き出した。それに合わせ、気になっていたジャングルと化している父の部屋を探索することにした。父はもともと物が捨てられない性分の上、定年後の仕事で理科の実験教室をやっていたせいで、材料となるがらくたをためこんでいる。

その上、ピック病(認知症の一種)の症状の一つは「ごみ屋敷を作ること」だ。そんな父の部屋はものすごいありさまだが、私は片付けが苦手。まだ気力も戻っていないので大々的に片付けることはできないが、預金や保険その他の状況をこの機会にチェックしなくてはならない。

母が亡くなって十数年、父が認知症になった数年の間に、預貯金や保険に何か恐ろしいことが起こっているかもと気が付いたのも最近だから、私もぬかりすぎだ。

なぜか私の「大学時代の通帳」がしまわれていた

しかし、正直、父が怪我する前までは、そういうことの掌握は難しかった。今でさえ、父の部屋のひきだしを見ているのが見つかると、「人の物を見るなんてとんでもないことだ!」と激怒する。だから、父が通所している間で、私ができる日にちょっとずつ探索することにしたのだ。

まず貯金通帳類は、現在生きていると思われるものが入っている箱とすでに閉じられたものが入っている箱を発見。そこになぜか、存在すら忘れていた、私が大学時代にバイト先から指定され、振り込み用に作った通帳があるではないか。印字は5万円ほどの残高となっている。「やった! 過去の私からのプレゼントだ」と思い、喜んだが、あまりにも昔のもので、キャッシュカードの行方さえわからない。