なぜ森雅子法相ではなく、武田氏が答弁に立ったのか

今回、武田氏が答弁席に立つ理由はなぜか。本来、検察庁法を所管する森雅子法相を答弁に立たせたくないからだ。黒川氏の定年が半年延長された閣議決定が1月31日に行われた後、「黒川氏を検事総長にするために意図的な答弁をしたのではないか」という指摘を野党から受け、森氏の答弁は二転三転した。

さらには「東日本大震災のとき、検察官は福島県いわき市から最初に逃げた」と前後の脈絡のない言葉を発し、国会を大混乱に陥れた。その悪夢が鮮明に残っているだけに、政府与党は、森氏を答弁に立たせたくない。

そういうわけで、武田氏が、検察庁法改正案も含めて答弁に立つことになった。気の毒といえば気の毒だが、その役割を担う以上、法務省所管の法律についてもきちんと答弁しなければならない。それなのに「私は法務省の職員ではない」とか「口を挟む立場にない」といえば「だったら森氏を出せ」という話になるのは火を見るより明らか。武田氏の答弁は、野党が仕掛けた罠に自らはまりにいったような話だ。

束ねた法案は「10本」なのに「7本」と答弁

立憲民主党の黒岩宇洋氏との間では、こんなやりとりもあった。

黒岩氏が束ねた法案の本数を尋ねた。正解は10本だ。黒岩氏は「10本」という答弁を引き出した上で「そんなに多くの法案を一括で審議していいのか。賛否は別々に示すことができるのか」と迫る予定だった。

ところが武田氏は法案名を長々と1本ずつ述べた後、「7本です」と答弁。さすがに黒岩氏も苦笑して「丁寧に答えると言って、平気で間違える。こんな人が所管大臣として答弁して。丁寧な議論は難しい」と皮肉るしかなかった。これは言い間違いではすまない。担当大臣としての資質が足りないと言わざるを得ない。

武田氏は2時間あまりの質疑の中で、検察官が定年延長されたのは黒川氏以外ないことを認め、今後、黒川氏のようなケースが起きる可能性は「当然あり得る」と言い、そのような定年延長をする際の要件や基準は「ない」と答えた。

3つをつなぎ合わせると、今回の法改正は①黒川氏の定年延長を後付けで追認する性格のもので、②法改正後は黒川氏のような人事行うことは可能になり、③その人事を行うための基準は存在しない――つまり、第2、第3の「黒川人事」を内閣の思うままに行えることを認めたことになる。野党としては完勝。政府・与党は最悪の結果となる。