▼藤原さんからのアドバイス

数字というのは客観的なものなので、文章に入れ込めば説得力が増す。そう考えてデータを並べるのはじつは逆効果です。文章は、数字で飾り立てるほど説得力を失います。

世の中には、数字嫌いの読み手がいます。たんに数字が苦手だというケースばかりではありません。数字が「ウソつき」であることを経験的に知っていて、数字を並べ立てた文章を見ると一歩引いてしまうのです。

そもそも数字は客観的ではなく主観的なものです。一例をあげましょう。日韓、欧米5カ国の18~24歳の若者を対象にした内閣府の調査で、「将来、老親をどんなことをしてでも養う」と答えたのは、欧米が51~66%だったのに対して、日本はもっとも低い28%でした。この数字だけを見ると、「日本の親子関係はドライだ」という結論が導かれるように思えます。

ところが同じ調査で、現在親と暮らしている人は、日本が74%で2番目に高く、欧米は平均48%にすぎないという結果が出ています。同居率に注目すれば、「子供が成人しても一緒に住むほど、日本の親子関係はベッタリだ」という逆の解釈も可能になります。つまり同じ調査からの引用でも、どの数字に焦点を当てるかによって、導かれる結論も大きく変わるのです。

どの数字を選ぶかは、書き手の主観の領域です。そう考えると、数字をあれもこれもと盛り込んだ文章は主張が不鮮明になり、かえって読み手を混乱させることがわかります。

必要なのは、あくまで主張の裏付けとなる数字だけであり、それに直接関係のない数字は極力省くべきです。数字やデータを使うなら、自分の主張に沿ったものを一つか二つに絞って見せたほうがいいでしょう。

作家●藤原智美


1955年、福岡県生まれ。『王を撃て』で小説家デビュー。92年、『運転士』で芥川賞受賞。『「家をつくる」ということ』がベストセラーに。『暴走老人!』『検索バカ』では現代社会の問題の本質を説く。