不覚にも涙を落とすことさえある

新聞の人生相談が好きなわけではない。その大半が各界著名人の余技みたいなもので、どうしても説教臭さが鼻につくからだ。しかし、日曜日の毎日新聞に掲載される、この著者のコーナーは必ず読む。相談者に常に寄り添う姿勢に襟を正し、居住まいを正して読む。ときに厳しく叱咤激励する一文に、思わず膝を打つ。不覚にも涙を落とすことさえあるのだ。

高橋源一郎『誰にも相談できません みんなのなやみ ぼくのこたえ』(毎日新聞出版)
高橋源一郎『誰にも相談できません みんなのなやみ ぼくのこたえ』(毎日新聞出版)

本書には、2015年4月から19年12月にかけて掲載された相談の中から、100本が抜粋されている。読み通すと、作家ならではの至言がふんだんに散りばめられていることに、あらためて気づかされる。

〈人間としてやらなければならない経験などないと思います。わたしたちはみんな「わたし」という、誰にもできない経験をしているのですから〉

〈「今はダメだけれど、次には」という人間が「次」に何かをきちんとなしとげた例をわたしは知りません。「今」から逃げる者は、「次」も逃げるのです〉

〈家族は永遠に続くものでも、何があっても守られるべきものでもないと思います。それに参加する者が、互いに誠実であるときだけ持続できるものです〉

〈わたしにとって子育ては、自分に愛する能力があると子どもたちに教えてもらったことです〉