この4月から「しつけでの体罰」が禁止になる

私は長年、虐待防止の活動を続けているが、そもそも虐待にならない親子関係の構築が必要だと思ってきた。そのためには、親から子どもへの体罰禁止をすることが大きな施策になると思って仲間と共に活動を続けてきた。省庁へ提言書を持参したり、議員に対してのロビイングも行ったりしたが、この時の「児童虐待防止緊急対策」にも体罰禁止は盛り込まれなかった。

そんな中、2019年1月に千葉県野田市で栗原心愛みあさん(当時10歳)の虐待死事件が起こった。心愛さんが、父親からの暴力に対して、意を決してアンケートで先生に助けを求めたにも関わらず、周囲の大人はその命を守ることができなかった。

このような虐待死が重なり、私はいてもたってもいられず、仲間と共に「虐待死をなくしたい! 子どもへの体罰・暴力の法的禁止を求めます」というネット署名を2019年2月3日にはじめ、2週間で2万人以上の署名を集めた。虐待死をなくしたいという国内の世論も後押しになり、2019年6月に親による体罰禁止を盛りこんだ改正児童虐待防止法と改正児童福祉法が満場一致で可決成立した。

2020年4月に施行される改正法では、親は「児童のしつけに際して体罰を加えてはならない」とされた。

7割の人は「子どもを叩いたことがある」

セーブ・ザ・チルドレン・ジャパンが2018年に報告した、全国2万人を対象とした調査(国際NGOセーブ・ザ・チルドレン 報告書『子どもの体やこころを傷つける罰のない社会を目指して』)では約6割が子どもへの体罰を容認しており、約7割が「子どもをしつけとして叩くことがある」と回答している。まだまだこれが日本の現状である。

今回の改正法は、体罰の禁止に関して、対象を「児童の親権を行う者」としており、禁止する内容については「体罰」という言葉を使っている。だが、子どもを傷つける可能性があるのは親権者だけではなく、暴力だけでもない。そのため、対象を「すべての人」とし、「体罰等」と、暴言も含む表現にされることが必要である。世界の子どもへの体罰禁止国は、この部分をクリアしている。

ただし、日本の場合は法改正が可決した際に「体罰の範囲や体罰禁止に関する考え方を示したガイドライン等を作成する」と決められていたことを見落としてはならない。その後、「体罰等によらない子育ての推進に関する検討会」(厚生労働省2019年9月~2020年2月)が設けられ、ガイドラインが定められている。「体罰等によらない子育てのために みんなで育児を支える社会に」である。筆者も構成員として加わった。

ガイドラインでは、体罰が子どもに与える影響として、以下が挙げられている。

・体罰等が繰り返されると、心身に様々な悪影響が生じる可能性がある。
・「落ち着いて話を聞けない」、「約束を守れない」、「一つのことに集中できない」、「我慢ができない」、「感情をうまく表せない」、「集団で行動できない」という行動問題のリスクが高まる(藤原武男他「幼児に対する尻叩きとその後の行動問題:日本におけるプロペンシティ・スコア・マッチングによる前向き研究」2017)。
・手の平で身体を叩く等の体罰は、親子関係の悪さ、周りの人を傷つける等の反社会的な行動、攻撃性の強さ等との関連が示されている(ガーショフ他「手で叩く体罰と子どもの結果:これまでの議論と新しいメタアナリシス」2016)。

つまり「子どものため」「良かれと思って」と行われてきた体罰が、子どもの成長・発達に悪影響であったということが、最近の研究で明らかになったのだ。