今回の震災で、日本経済に打撃をもたらした工業用品の部品供給問題。震災のたびに部品供給の分散化の必要性が叫ばれながら、逆に集中化が進むのは何故か?サプライチェーンの仕組みを検証する。

独立型、協働型、垂直統合型の違い

今回の震災で、自動車部品やエレクトロニクス部品の生産拠点が被害を受け、部品供給ができなくなった。そのために、川下の自動車工場や電子機器工場が操業できなくなるという事態が発生した。影響は自動車産業でとくに深刻である。自動車産業の場合組み立てメーカーの工場が操業を再開するのに震災後1カ月以上の時間を要した。操業再開の後もまだフル生産には入ることができない。国内だけではない。海外でも生産削減が続いている。自動車などの組み立て型産業にとって部品のサプライチェーンがいかに大切かを改めて確認させられる結果になった。

このようなサプライチェーンの脆弱性はこれまでの災害でも気づかれていた。阪神・淡路の震災の際はエンジンの弁バネの供給がストップした。新潟県中越沖地震のときにはエンジンのピストンリングの供給がストップした。今回は供給が途絶えた部品の種類が多い。神戸や新潟の震災時にも、リスク管理という観点から部品供給源の分散化の必要が叫ばれたが、むしろ、現実は、これとは逆の集中化の方向に進んでいった。今回の時論では、なぜサプライチェーンの集中化が進んだのかを考えることにしよう。

サプライチェーンの集中化という現象を考えるにあたって、少なくとも2種類のタイプのサプライチェーンを区別して考える必要がある。一つは、独立型サプライチェーン。もう一つは協働型サプライチェーン。原理的に考えると、もう一つのタイプのサプライチェーンがある。垂直統合型である。垂直統合型は、一つの企業の中でサプライチェーンを完結させようとするものである。

この垂直統合型は、自動車産業でも電子産業でも淘汰されてしまった。かつてIBMは、大型汎用機で垂直統合型のサプライチェーンをつくり出していた。同社は、パソコンの生産でも最初は垂直統合型サプライチェーンを用いていたが、基幹集積回路はインテル、基幹OSはマイクロソフト、メモリーは日本メーカーという形でアウトソーシングが進められた。その結果として非統合型のサプライチェーンがつくられることになった。自動車産業でも草創期にヘンリー・フォードが垂直統合型のサプライチェーンをつくり出した。主力原材料である鉄鋼の自社生産を行ったし、一時は鉄鉱石の鉱山事業まで統合したこともあった。