「バカバカしいもの、歓迎」。これも、会議を盛り上げるための彼らの流儀である。考えに制限をつけない。中村氏は、時々メンバーを挑発する。「お金、いくらかけてもいいよ」。非常識でも、前例がなくてもいい。とにかく話を広げ、参加者の脳を投影した「巨大な共同脳」をマップに描こう。絞り込みはその後でいい。そんな暗黙の了解があるという。

彼らが残したマインドマップの議事録には音符や星、月、ドラえもんなど、さまざまな絵が描かれている。そうすることで伝えたいイメージが明確になる効果もあるのだ。

脳だけでなく、目と手を動かすことによって、マインドマッパーは思考を無限にスパークさせるのである。

マインドマップ会議を課会に導入した無機化学品課課長の中村敦氏。

課会は週に1度開かれる。その日の議題について、各自事前にマインドマップで考えをまとめてから集まる。新入社員もベテラン社員も、話し好きも口ベタも、自分の意見をどんどん口にする。

経営学の眼●組織活性化のカギ「最小有効多様性の法則」
一橋大学大学院商学研究科教授 守島基博

会議でいつも発言する人、黙っている人がなぜか決まってくるように、集団は放っておくと一つのパターンに収斂するものです。

この記事ではマインドマップの使用を年次の違う参加者を対等化し、参加意識を高める手段としてとらえていますが、もう少し大きな視点から見ると、これは一種の構造破壊、すなわち既存のパターンを壊すための手法として位置づけることができます。

ここで言う構造とは人間関係のパターンもあれば、人間の認知構造も含まれます。この会議では、マインドマップによって既存の構造やパターンを揺さぶって「ゆらぎ」を与えています。その結果、従来は発言を躊躇していた人から良い意見が出てきたり、意見を言うことによって皆の参加意識が高まる効果が生まれるのです。

組織にゆらぎを与える最大のメリットは、組織内の多様性の増大にあります。環境の多様性に合わせて同じレベルの多様性を組織が保持していないと、対応できない部分が出てくるため、組織はやがて環境に適応できなくなってしまう。これをアシュビーの「最小有効多様性の法則」と言います。要するに、現在のように市場環境が複雑で簡単に読めない状況下では、意図的に多様性を増大しておくことが組織の存続にとってきわめて重要な課題になるのです。

ただし、状況によっては、多様性の増大より一つのパターンに収斂させる行為が重要になる局面が出てくるかもしれません。また、一口に会議といっても皆の納得する着地点に収斂させることが重要なものもあります。

そこは個々の状況に応じ使い分けしていくしかありません。これを見極めるのは組織のリーダーで、状況を読み、最適な手法を駆使していく能力が求められます。

(小川 聡=撮影/コラム:一橋大学大学院商学研究科教授 守島基博 構成=宮内 健)