「オリンピックでは、どんな喜びや満足感を味わえるのか。それを知らないと終われないと思いました。しかし、次のオリンピックまでの4年間、苦しい練習に耐えられるのか? 何度も自問自答しました。でも、選手として得られるものを知りたい、という気持ちが勝ったんです」

結果がよくても、内容がともなわないと満たされない

新たな覚悟で挑んだシドニー五輪ではデュエットとチームの2種目に出場し、両方で銀メダルを獲得。特にチームでは会心の演技ができた。

3度目の挑戦となったアテネ五輪。最高の状態で集大成となる演技をし、見事銀メダルを獲得。
3度目の挑戦となったアテネ五輪。最高の状態で集大成となる演技をし、見事銀メダルを獲得。(Getty Images=写真)

「空手の動きを取り入れた演技をしたのですが、やってる間、ゾクゾク、ワクワクして、終わった瞬間は、やった! と思いました。完璧にできたのがわかる、最高に幸せな境地に達したんです。答え合わせはできました」

しかしデュエットでは課題が残った。練習で感じていたパートナーとの微妙なズレが大きな不安となり、決勝ではミスが出たのだ。

「これがオリンピックの魔物かと。銀メダルは取れたのですが、納得のいく演技ができなかった自分が許せなくて。結果だけ見れば十分だったかもしれません。でもそれでOKじゃない。評価や結果ではなく、内容がともなっていないと満たされないんです。あれほど練習したのに、こんなに空虚な気持ちになるなんて、私、4年間何やってたんやろと。それでまたやめられなくなったんです」

気力体力、あらゆる面でこれが最後の五輪になる。そう覚悟を決めて練習に打ち込み、心身ともに最高の状態で乗り込んだアテネでは銀メダルを獲得。メダルの色は前回と同じだが、気持ちは違っていた。

「ああ、自分との勝負に勝った、思い残すことはないという静かな達成感、納得感を得られました。井村先生にも認めてもらえたので、引退のときはすっきりした気持ちで何の悔いもなかったです」

武田美保(たけだ・みほ)
シンクロスイマー、オリンピック銀メダリスト
アトランタ、シドニー、アテネの3度の五輪で合計5つのメダルを獲得。引退後はテレビ番組への出演、講演、本の執筆など幅広く活動している。
【関連記事】
全ての「頭がいい人」に当てはまる唯一の共通点
3兆円投入のツケ「東京五輪の失敗」で大不況がやってくる
なぜラグビーの外国人代表は「助っ人」と呼ばれないのか
「五輪裏方軍団」が60人から8000人に増員のワケ
「部活が忙しくて勉強ができない」に潜む根本的な間違い