政府紙幣というアイデアが自民党議員の間で急浮上している。これは文字通り政府が紙幣を発行し、現在流通している日銀券と同様の機能を持たせるものだ。日常生活で日銀券と同じように使うことができる。

国は財源確保のために国債を大量発行しているが、政府紙幣を発行すれば国債に代わって政府紙幣を財源にあてて、国債の発行を抑えることができる。魅力的に思えなくもないが、問題はないのだろうか。

緊急措置としては理解できる部分もあるが、正直なところ「問題あり」と言わざるをえない。お金の流通量が増えると、お金の価値が下がり、物価が上昇する。つまり、インフレが懸念されるのだ。緩やかなインフレであればいいが、ハイパーインフレの危険性も否定できない。

しかし、現状ではそのあたりの視点が欠けており、議論が不足している。経済学者など専門家で構成されるチームを編成し、研究すべきであろう。

物価は経済の心臓部であり、ハイパーインフレは心臓発作に等しい。発作が起きれば死に至ることも考えられる。そうならないために、マネーの供給量を調整しているのが日本銀行だ。

日銀は物価の見張り番ともいわれ、消費者物価指数という“血圧”を絶えずチェックし、必要に応じて通貨流通量を調節する。それというのも、経済と国民の生活を安定させる目的で、紙幣発行の権限を有しているから可能なのだ。日銀が政府から独立した存在なのも、通貨流通量を健全に保つため。それなのに政府が紙幣を発行したのでは、通貨の流通量が過剰になる恐れがあり、ハイパーインフレに繋がる危険性は否定できない。

「ハイパーインフレの懸念はない」という意見もあるが、死の危険性もある“発作”が起きたらどうするのか。過去にはアメリカ、フランスでも政府紙幣を発行している。どんな場合に、どのような影響を及ぼすか、歴史的背景を研究し、ハイパーインフレが起きた場合はどう収拾するか、事前に検討しておくべきだ。万分の一でも危険性があれば、対応策を用意しておくのが政府の役割である。