大口産業用電力需要は、2008年12月に対前年同月比13.0%減と史上最悪の減少率を記録し、09年1月はそれを下回る18.7%減となった。2月はさらに悪化すると予想される。

特に、需要減退が大きかったのが、中部、中国地方である。自動車や鉄鋼などの大規模産業の集積地を擁するこれらの地域では、大口産業用電力の落ち込みが激しい。こうした傾向は3月、4月まで続き、その後、減少幅は縮小に転じると予想されるが、当面、前年同月比でマイナスの水準が続くだろう。

電力各社にとって、需要の減少は減益要因となる。そのほか、資産運用環境の悪化による退職給付費用の増加、設備の経年劣化対策などによる修繕費の増加、新エネルギー導入対策費の増加などの減益要因が存在するものの、10年3月期の収支は、各社とも大きく改善する見込みだ。

その主な理由は、(1)燃料価格の低下、(2)円高、(3)柏崎刈羽原発の復旧などによる原子力の利用率向上、(4)08年度に発生した一過性の料金圧縮の反動などである。特に、燃料価格低下の影響が大きい。

こうした状況の中、東京電力は、10年度の新卒採用予定者数を前年度比300人増の1100人とすることを発表した。関西電力、中部電力なども前年度並みの水準を維持する計画だ。

電力自由化などの規制改革の開始とともに、電力各社は新卒採用の抑制により人員削減を進めてきた。このひずみを解消することが、新卒採用を増やす目的の一つである。中でも、現場の技術職不足は深刻だ。配電線や送電線の設置、維持・管理に携わる、特殊技能を有した電気工事技術者の高年齢化が進んでいる。

電力各社にとって、中・長期的な課題となるのが、電力供給システムの低炭素化だ。そのために、各社は太陽光発電をはじめとした新エネルギーへの対策を進めているが、現在の技術では、まだまだ電力を安定的に供給することが難しい。例えば、太陽光発電では、少し日が陰るだけで発電量が大幅に減少してしまう。電力の供給安定性を高めるために系統安定化対策は急務であり、そのための人材を早急に育成する必要があろう。