2017年の映画『ペンタゴン・ペーパーズ』は、米国政府がベトナム戦争の有効性について調べた機密文書を、米紙ニューヨーク・タイムズとワシントン・ポストが白日の下に晒した1971年の事件を描いた。それから、48年。ワシントン・ポストは、機密文書「アフガニスタン・ペーパーズ」を入手し、政府が戦況を偽っていた事実を報じた。話題作『2050年のメディア』(文藝春秋)で、ニューヨーク・タイムズの復活のプロセスを描いた慶應義塾大学総合政策学部特別招聘教授の下山進が、この報道の意味を説く——。
写真=EPA/時事通信フォト
米紙ワシントン・ポストの社屋(アメリカ・ワシントン)

「アメリカは負けている。早く撤退すべきだ」

慶應や上智で開講している講座「2050年のメディア」では、必ず、ニューヨーク・タイムズの回をもうけ、学生には映画『ペンタゴン・ペーパーズ』を見てから授業に臨むようにさせている。

というのは、この事件ほど、報道の存在する意味をよく知らせてくれる事件はないからだ。

1971年のペンタゴン・ペーパーズ報道はアメリカにおいて、ニューヨーク・タイムズとワシントン・ポストが真の意味で「第四の権力」として政府をチェックする役割を持つことが人々の間で認識された事件だった。

米国政府がベトナム戦争の有効性について調査したその結果は、「アメリカは負けている。早く撤退すべきだ」というものだった。が、この調査報告書は、政権内でもごく一部が共有したのみで、公表されずに終わろうとしていた。

その文書を持ち出してコピーし、ニューヨーク・タイムズやワシントン・ポストに持ち込んだのが執筆者ダニエル・エルスバーグで、ニューヨーク・タイムズはそれをもとに連載を始めるが、ニクソン政権から、出版差し止めの仮処分申請がなされ、これが認められてしまう。

あとから文書を入手したポスト紙は、社の経営を揺るがせるであろうこの文書を掲載すべきか否かで社は真っ二つに割れる。