スーパー各社が半額セールを行っている

金沢では「アイス半額セールも多い」という話も、地元の女性から聞いたことがある。今回金沢市内で、どんたく以外のスーパー店頭を回ってみたが、人気商品「パルム」の箱入りアイス(マルチ)も半額となっていた。“ハーゲンダッツ未満の自分へのごほうび”と筆者が位置付けるパルムが半額なのは、首都圏ではあまり目にしない。こうした箱×特売も、アイス購入額を押し上げているのだろう。

筆者撮影
金沢市内のスーパーのアイス売り場。アイスの半額セールは石川県内でよく行われている。

「石川県は食品小売りの競争が激しく、ドラッグストアも多く進出して、食品を安く取り扱います。『クスリのアオキ』本社は県内の白山市ですし、福井県本社の『ゲンキー』もある。全国でも上位を競う『マツモトキヨシ』『スギ薬局』『コスモス薬品』も進出してきました。七尾市ではシェアの高い当社も、うかうかしてはいられません」(坂下氏)

どんたくでは「半額セール」に代表される低額販売も、手法としては取るが、利益を圧迫するので、今年10月からは割引対象を箱アイスだけにした。メーカーPOPもあまり使わず、従業員の手づくりPOPで来店客に訴求するのも、同社の持ち味だ。

図表3 スーパー「どんたく」の売り上げベスト20(11位~20位)

順位

商品名

容量

種別

11

江崎グリコ「ジャイアントコーン アソート」

140ミリリットル

マルチ

12

赤城乳業「ガリガリ君ソーダ マルチ」

441ミリリットル

マルチ

13

森永製菓「パリパリバー」

384ミリリットル

マルチ

14

明治「エッセルスーパーカップ 超バニラ」

200ミリリットル

ノベルティ

15

森永乳業「ピノ」

60ミリリットル

ノベルティ

16

クラシエフーズ「ヨーロピアンシュガーコーンバニラ」

280ミリリットル

マルチ

17

森永乳業「パルム アーモンド&チョコレート」

348ミリリットル

マルチ

18

ロッテ「モナ王バニラ」

160ミリリットル

ノベルティ

19

赤城乳業「ガツンとみかん」

290ミリリットル

マルチ

20

丸永製菓「白くまバー マルチ」

360ミリリットル

マルチ

※2018年1月~2019年10月までの総計
※マルチ=箱、ノベルティ=単品

暖房の効いた部屋で「上乗せ気分」を味わう文化

これから石川県にとっても厳しい冬に向かうが、アイスの購入上位を寒い北陸地方が占めるのは、半額以外にも理由がありそうだ。都心部に比べて「暖房を強めにして、暖かい部屋で冷たいアイスを食べる」ことも多いのではないか。山澤氏はこう説明する。

「能登と金沢を比べると、能登の家庭は今でも石油ストーブが中心で、それにファンヒーターを併用する家も目立つ。気密性の高い現代風の家屋ではなく、昔ながらの家が多いのもあるでしょう。逆に金沢は石油ストーブがほとんどなく、床暖房の家も多いという特徴があります。年金世代にとって、アイスは安くておいしいので好まれると思います」

どんたくの売れゆき上位で目立った「チョコレート味」人気を、筆者は「ささやかな上乗せ気分」ではないかと考えている。

例えば、首都圏を中心に約200店を展開する「天丼てんや」では、偶数月の15日の「年金支給日」には、高齢者の来店が増えるという。せっかくの年金受給日の外食先に、牛丼ではなく天丼を選ぶのも「上乗せ感」。これに近い消費者心理を感じるのだ。

現役世代も年金世代も、多くの人は身の丈に合った消費をせざるを得ない時代。家庭用アイスの人気を探ると、さまざまな本質が見えてくるように感じた。

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