ショックレーは部下の発明に激しく葛藤していた

点接触型トランジスタ誕生の一報を聞いたショックレーはうろたえていた。チームの成功に誇りを感じていいはずなのに、部下への激しく暗い競争心のほうが大きくなっていたのだ。後年、彼自身もこう認めている。

「感情に、かなりの葛藤があった。チームの成功を喜ぶ高揚感は、その発明に自分が加わっていなかったことで損なわれた。私自身、8年も前から努力してきたというのに、発明にあまり貢献できなかったからだ。そこにフラストレーションを感じていた」

ショックレーは、今回の点接触型トランジスタの発明についてほかのふたりと同等の功績があると主張するため、また、もっと高性能な素子を独自に作り出すため、とりつかれたように実験を始めた。ほぼ1カ月、「接合型トランジスタ」のアイデアを隠しつづけた。

「トランジスタで自分だけの重要な発明をしたいという競争心があった」

だが、バーディーンをはじめチームの研究者たちも同様の研究をスタートしていた。そのうちの一人が土台となる研究について発表したとき、ショックレーは立ち上がってその発表を引き取り、突然、水面下で進めていた自分の研究を明らかにした。

「今度ばかりは、後れをとるわけにいかなかった」

バーディーンとブラッテンはあっけにとられた。ショックレーが新しいアイデアを隠していたこと、ベル研究所の文化でもあった「共有の原則」という文化に反していたことに困惑したのだ。

ショックレーはチームのリーダーとしては不適任者だった

成功したチームは、情熱的であればあるほど、やがて分裂してしまうことが多い。そういうチームをひとつにまとめておくには、特殊なタイプのリーダーが必要だ。

○人を刺激するが、指導力もある
○競争心を持っているが、協力も惜しまない
○上下関係を超えた団結心を育てる力がある。

ショックレーは、こうしたリーダーとは言いがたかった。部下や同僚に対して競争心をあらわにし、秘密主義になったりするタイプなのだ。

上下関係を超えた団結心を育てるという点でも、ショックレーは失格だった。専制的で、部下の独創的なアイデアを押さえつけては意欲をそぐことも少なくなかった。

ブラッテンとバーディーンが大成功を収めたのは、ショックレーがいくつか案を出すだけで、こと細かに管理したり監督しなかったころのことだ。その後、ショックレーはどんどん威圧的になっていった。

バーディーンとブラッテンばかりか経営陣とも衝突したショックレーは、ベル研究所を退職。自分の会社を興すべく、さまざまな資本家、経営者、研究者を訪ねる。

「結局のところ、私ほど賢く情熱的で、人を理解している者は、訪問したなかにもほとんどいないんだ」