楽天やアマゾンとの差は開いたまま

今年10月には、ヤフーは“PayPayフリマ”、“PayPayモール”と名付けた新しいEコマース事業を開始する予定だ。このプラットフォームでは、ソフトバンクが有するAI(人工知能)を用いた消費者行動の分析機能などが実装され、従来以上の収益獲得が目指されているとの見方もある。

ZOZO買収によって、ヤフーは“PayPayモール”などの新しいプラットフォームに消費者を呼び込みたい。さらに、ヤフーは新しい取り組みを進め、競争力あるサービスを生み出さなければならない。そのために、自分に合ったスーツを、自宅に居ながらにして気軽に手に入れるという従来にはない発想の実現に取り組んできたZOZOの創造力は、ヤフーにとって大きな魅力に映ったはずだ。

別の言い方をすれば、従来のヤフーには、ダイナミックに発想を転換し、新しい取り組みを進めようとする勢いが感じづらかった。ヤフーは検索サービスから広告収益を得るビジネスモデルを構築し、成長した。

しかし、グーグルの出現以降、ヤフーは競争力を低下させてしまった。その後はEC事業の強化に取り組んだが、楽天やアマゾンとの差は開いたままだ。メルカリのような新規参入の脅威にも対応しなければならない。ヤフーがZOZO買収に4000億円もの資金をつぎ込んだことを考えると、ZOZOの活力を取り込んで一気に成長のモメンタムを引き上げたいという経営陣の意気込みは非常に強い。

ヤフー経営陣の焦り

気になることは、ヤフー経営陣の“焦り”が強くなっていることだ。ヤフーがアスクルの社長再任などに反対した背景には、自社の思うとおりに物事を進め、戦略の執行と成果の実現を急ぎたいという経営陣の差し迫った状況があると考えられる。

経営者として成長にこだわることは当然であり、不可欠だ。成長への野心がなければ、企業の発展はおぼつかない。ただ、その考えが強くなりすぎると利害関係者との対立などが生じ、経営が混乱してしまう。それは企業の成長にマイナスだ。

そもそも、買収戦略を通して持続的な成長を実現することは容易なことではない。買収企業と被買収企業の間には、どうしても“情報の非対称性”が生じる。事前に買収する企業のことをしらみつぶしに調べ、財務や契約関連のリスク、経営上の問題など、相手方のすべてを事前に把握することは不可能だ。