棚卸資産回転期間は平均の2倍以上

ハウスメーカーにとっての在庫とは、買い付けた土地や建築中の物件などが該当する。戸建ての場合、着工から引き渡しまで、おおむね3~4カ月かかるため、棚卸資産回転期間は100日前後となるのが相場だ。ちなみに大和ハウス工業の棚卸資産回転期間は105.7日、住友林業は82.0日、ミサワホームは92.6日である(すべて直近の本決算数値より算出)。

業種別の棚卸資産回転期間の違い

ところが、積水ハウスの棚卸資産回転期間を計算してみると、なんと234.1日もある。月数にすると7~8カ月だ。積水ハウスで家を建てると、工期が通常の2倍もかかるということだろうか。

一般的に、棚卸資産回転期間が業界平均よりも長くなっている会社は、長期間在庫が残ってしまう滞留在庫のおそれがあると考えられる。

とくに不動産ビジネスは、在庫リスクと隣り合わせのビジネスだ。仕入れから販売まで、他の業種よりも長期間かかるだけなく、その金額も巨額となるからだ。予定通り販売できれば問題ないが、市況が悪化して販売が低迷する、あるいは大幅な値下げをしないと販売できないような状況に陥ると、一気に資金繰りが悪化する。

例として、負債総額2558億円を抱え、経営破綻した不動産開発のアーバンコーポレイションが参考になる。厳密にいえば、ハウスメーカーと不動産開発会社とではビジネス構造は異なるものの、土地や建物を棚卸資産として扱う点においては同様のリスクを抱えているビジネスといえる。

棚卸資産が膨らみ、資金繰りが悪化して倒産する

アーバンコーポレイションは、急速な右肩上がりで売り上げと利益を伸ばしていた新進気鋭の会社であり、市況の悪化で不動産の販売が低迷していたにもかかわらず、用地仕入れを積極的に行っていた。仕入れた在庫は販売されるまでは費用(売上原価)にはならず、貸借対照表の資産の部に棚卸資産として計上される(販売のタイミングで売上原価に振り替わる)。

したがって、損益計算書上は黒字が続いていた。その代わりに棚卸資産はどんどん膨らんでいって資金繰りが悪化し、やがて銀行からの融資も受けられなくなり、結局破綻してしまったのである。

リーマンショックの時に、不動産業界で倒産ラッシュがあったが、その多くはアーバンコーポレイションと同様、在庫リスクが顕在化したことが要因だ。

不動産販売で売上高を伸ばすためには、売り物である販売用不動産を仕入れなければはじまらない。しかし、仕入れ過ぎると、棚卸資産が多額に積み上がり、在庫リスクが膨らむ。その結果、棚卸資産回転期間が異常な数値として現れるのである。

将来の不動産の需要動向を見据えて、どこまでリスクを背負って在庫を抱えるか、慎重に意思決定しなければならないビジネスである。その意思決定の成否がビジネスの成功と失敗を分けるといっても過言ではない。