「尖っているほうがかっこいい」「破滅的なものが偉い」というのは本当だろうか。脳科学者の茂木健一郎氏は「堀江貴文さんなど尖っているイメージの人でも、実際は仕事相手や仕事自体には礼を尽くしている。そろそろ『円熟』に目を向けたほうがいい」という――。

※本稿は、茂木健一郎『ど忘れをチャンスに変える思い出す力』(河出書房新社)の一部を再編集したものです。

写真=時事通信フォト
2019年5月15日、記者会見する宇宙ベンチャー、インターステラテクノロジズ(IST)の稲川貴大社長(右)と、元ライブドア社長の堀江貴文氏

年を重ねるほど「キレにくくなる」理由

若い人の脳と年を重ねた人の脳とでは、どういうところが違うと思いますか。

若いときは、神経回路の中で何かが突出しているものです。たとえば、若い人は感情が突出しやすいところがあります。

脳の司令塔である前頭葉が発達の途中にあり、感情を抑制する回路が比較的弱いから、不快なことがあったら、ついその場でキレてしまったり、人間関係を壊してしまったりします。

年を重ねていくと、「そういうことをやると、いいことにならない」と経験し反省するから、感情を抑制したり、うまく発散したり、ぶつからないよう迂回したりできるようになります。経験と反省により、脳の抑制回路が育ち、バランスがよくなっていく。つまり「円熟する」のです。

円熟とは、「あいつ、円くなっちゃって、つまらないよな」と悪い意味で言われることがありますが、実は、突出した感情を失ってしまうことではなくて、むしろ強い感情はそのまま持っていて、それに加えて前頭葉の抑制回路が育った、両方向にバランスよく育った脳ということができます。

「円くなる=つまらない人になる」のではない

私は以前、松本人志さんを揶揄するような発言をして、ツイッターを炎上させてしまいました。振り返ると、若いときから私は少し言いすぎてしまうことがあったようです。

言いっぱなしで、相手に本当には届けようとしていないところもあります。大事に思うことを、その場でぶちまけるだけで、説明やカバーが足りていなかったのです。言いっぱなしにしていた後は、必ずと言っていいほど、いいことにはなりません。

昔を振り返って、「言うだけ言ってちゃんと説明しないことは、いいことにつながらない」と今ごろ反省しているわけですが、たくさんの間違いを重ねて、「穏やかであることが大事だ」と、ようやく考えられるようになりました。

円熟とは、多くを見渡し、制御がきくようになる。つまり、強い感情に釣り合うほどに抑制回路が成熟するから、円く見えるだけなのです。

それが人格的強さや徳が高まるということ。

必ずしも穏やかな人が、若者と同じような感受性をなくしたとは限りません。円くなるとは、決して人間がつまらなくなることではないのですから、安心して円熟のほうへ向かっていくべきなのです。