“解雇無効”の判決が出るも復職させず

裁判で、協会側は「協会への誹謗中傷や、運営に対する妨害行為があった」と主張。尾方さんを「従業員の立場でありながら組織の主導権を握ろうとしている」と批判した。裁判の被告は空手協会のみとなっているが、実際に指揮したのは中原伸之前会長だとみられている。

中原氏とは、どんな人物なのか。

中原氏は1934年生まれ。東京大学経済学部卒業後、59年に東亜燃料工業(現在のJXTGエネルギー)に入社。86年に社長、94年に名誉会長となっている。98年~2002年には日本銀行政策委員会審議委員を務め、02年から05年には金融庁顧問を務めている。

写真=時事通信フォト
インタビューに答える中原伸之・元日本銀行審議委員=2012年11月27日、東京都港区

空手協会の会長に就任したのは、東燃の社長になった86年で、2015年10月に交代するまで在任期間は30年に上る。協会の関係者によると「空手の経験は一切ない」という。

裁判では、2017年の一審判決、翌年のニ審判決はいずれも協会側の主張を退け、懲戒解雇は無効とされた。19年2月8日には最高裁が協会側の上告を棄却し、判決が確定。尾方さんは総本部指導員として職務に復帰できるはずだった。

しかし、8月5日時点で、尾方さんはまだ復職できていない。協会からは、最高裁の判決を受け「出勤命令が出るまで自宅待機するように」という書面が届いたが、それ以降何も指示されず、約半年が過ぎたことになる。

プレジデントオンライン編集部は、空手協会に対し、尾方さんを復職させていない理由について問い合わせたが、小倉靖典専務理事は「回答を控えたい」と述べるにとどまり、明確な回答は得られなかった。

家賃、娘の学費のため借金生活

多くの総本部指導員と同じように、尾方さんも2003年に自身の道場を開き、現在50人の弟子を抱えている。しかし、4年前の解雇と同時に指導員資格が停止されたままで、稽古の指導に当たることができずにいる。協会直轄の道場での指導が禁止されている指導員は、尾方さんただ一人だ。

最高裁が協会に支払いを命じた未払い賃金は支給されているが、その額は月22万円程度。尾方さんは娘と2人暮らしだが、家賃のほか、専門学校に通う娘の学費を1人で支払うにはとても足りず、支援者や親族に借金をして工面している。

「総本部指導員として働いていた時は、基本給に加えて賞与や指導手当といった複数の手当てがありましたが、今はそれが一部しかもらえていない。生活がままならない状況です」(尾方さん)