女子高生の快挙は「優勝ライン」が下がったことが要因

日本の男子短距離はレベルをグングンと上げているが、日本の女子短距離界は「世界」との差が徐々に広がっている。これは4×100mリレーと4×400mリレーを見てもよくわかる。

男子4×100mリレーは2016年のリオ五輪で銀メダル、翌年のロンドン世界選手権でも銅メダルを獲得。来年の東京五輪では金メダルの期待もかかる。男子4×400mリレーは5月の世界リレー選手権で4位に食い込み、ドーハ世界選手権の出場権をつかんだ。

ドーハ世界選手権のリレー種目は上位16カ国に出場権が与えられるが、日本の女子は4×100mリレーのチャレンジを終了させて、4×400mリレーも出場は難しい状況なのだ。

ただでさえレベルの低い女子短距離界だが、今年の日本選手権は主力が不在だった。100mでは昨年1~3位に入った世古和(CRANE)、福島千里(セイコー)、市川華菜(ミズノ)が欠場。同4位の御家瀬が優勝したわけで、ある意味、順当といえる結果なのだ。

200mでは日本記録保持者で前回Vの福島が欠場。前回2位の市川は今季調子が上がらず、予選で敗退した。400mは前回1位の川田朱夏(東大阪大)と同2位の広沢真愛(日体大)が今季はケガで出遅れたという事情があった。

高校生の快挙は、例年以上に「優勝ライン」「入賞ライン」が下がったという側面と、今年の高校生がハイレベルだったことで起きた現象になる。

「スーパー高校生」が高校卒業後に伸び悩んでいるワケ

このような状況の背景には、日本の女子陸上の“闇”が影響していると筆者は考えている。女子陸上では毎年のように「スーパー高校生」が出現しているが、その多くが高校卒業後に伸び悩んでいるのだ。これは短距離だけでなく、他の種目にも当てはまる。

※写真はイメージです(写真=iStock.com/ChrisGorgio)

たとえば今回の日本選手権100mで御家瀬に次ぐ2位に入った土井杏南(JAL)は大学を卒業して社会人2年目の23歳。かつては「スーパー高校生」と騒がれた選手のひとりだ。高校2年時の日本選手権100mで2位に入り、夏のロンドン五輪では4×100mリレーに出場した。

しかし、大学ではケガもあり、十分なパフォーマンスを発揮することができなかった。現在は練習拠点を母校・埼玉栄高に戻して、再浮上のキッカケをつかみつつあるが、高校2年時にマークした自己ベスト(11秒43=日本高校記録)は更新できていない。

土井のように高校で日本のトップクラスに上りつめても、その後に伸び悩む選手は多い。その証拠に、日本歴代記録30傑のなかに高校所属の選手がたくさんいるのだ。

女子100mは土井杏南(埼玉栄高/2012年)、御家瀬緑(恵庭北高/2019年)、齋藤愛美(倉敷中央高/2016年)、神保祐希(金沢二水高/2013年)、伊藤佳奈恵(恵庭北高/1993年)、玉城美鈴(中部商高/2009年)の6人。

同200mは齋藤愛美(倉敷中央高/2016年)、中村宝子(浜松西高/2006年)、青野朱季(山形中央高/2018年)、神保祐希(金沢二水高/2013年)、鈴木智実(市邨学園高/1997年)、壹岐あいこ(京都橘高/2018年)、柿沼和恵(埼玉栄高/1992年)の7人。

同400mは杉浦はる香(浜松市立高/2013年)、大木彩夏(新島学園高/2013年)、髙島咲季(相洋高/2019年)、青木りん(相洋高/2016年)、磯崎公美(山北高/1982年)、山地佳樹美(明善高/1985年)の6人が名前を連ねている。

土井、御家瀬、齋藤、青野、壹岐、髙島、青木の7人は現役選手のため、自己ベストを更新する可能性はあるが、他の10人はすでにスパイクを脱いでいる。これは高校卒業後の低迷を物語っているといえるだろう。