ドライバーの体調をクルマが管理する時代

運転能力の衰えとは、ある日を境に100から0に変わるものではない。本人も気付かない間に少しずつ衰えていくのだ。本人も自覚するほど運転が難しくなったらパーソナルモビリティへの乗り換えなどの方法があるとして、もう少し手前、年齢的にはそろそろリスクが増えているかもしれないが、本人の自覚が無い場合はどうすれば良いか?

これについてはボルボが面白い取り組みを始めた。いくつかのプログラムの中の一つが、車内カメラによってドライバーの状態を監視し、薬物やアルコールなどを使用しての運転を監視するシステムだという。現時点では20年の搭載を目指したシステムで詳細は発表されていないが、警告は当然としておそらくクルマを停止させる機能も搭載されると思われる。これは高齢者の誤操作の抑制にも効果があるだろう。

近い機能のものはすでにスバル・フォレスターやMazda3などにも搭載されており、こちらは車内カメラでドライバーの居眠りや脇見運転を監視・警告するシステムになっている。

スバルドライバーモニター。車内カメラでドライバーの表情の変化を判定して、警告をするシステムはすでに市販化されている

つまり自動車は発明以来130年の時を経て、ドライバーのヘルスコントロール領域に到達しつつある。これまで各社のエンジニアに伺った結果、ドライバーの視線や表情、動きなどでパニック状態にあるかどうかを判断することは技術的には可能なはずで、もし、踏み間違いでアクセルが全開にされた様なケースでは、その操作を無効にできるかもしれない。

「自動停止ならどんな事故も安全」とも言えない

しかしながらこれには法律の壁がある。国際的な運転ルールの取り決めにはジュネーブ条約とウィーン条約があり、国連の道路交通安全作業部会で議論が行われているが、従来、運転の最終権限はドライバーにあり、そのドライバーは必ず車内にいなくてはならなかった。

つまりドライバーがアクセルを全開にしている場合、それを無視してシステムが違う判断を行ってはいけないルールだったのだ。しかし自動運転の実現に向けて、国際的にこれらのルールを見直そうという動きが16年頃から始まっている。そもそも自動運転の思想的根幹は「安楽な移動」ではなく、「ヒューマンエラーの排除」が目的であり、交通事故死亡者ゼロへ向けた取り組みである。

その理念から言えば、事故防止のためのシステム介入は容認されるべきで、新しい時代の議論が今まさに俎上(そじょう)に上がっているのだ。

スバルは衝突試験が義務付けられるはるか以前、1958年のスバル360から衝突試験を行ってきた。高齢者事故の問題にもリーダーシップをとってくれることを筆者は期待する

もちろん難しい点もある。12年12月、中央自動車道の笹子トンネル(山梨県)で天井板の崩落事故があり、巻き込まれたドライバーがアクセルを全開にして逃げ切った例がある。クルマはスバルのインプレッサWRXで、ラリー競技などにも使われたハイパワーモデル。

そのクルマがコンクリート片に何度もぶつかってボディー全体をひどく変形させつつもドライバーの命を助けたことは大いに話題になった。