急速な少子高齢化で、医療介護分野の「カネ」と「ヒト」の不足が深刻化しつつある。どうすればいいのか。日本総研の翁百合理事長は「医療情報のIT化に対する不安を払拭し、データ利活用できる基盤を早急に実現する必要がある」と指摘する――。

医療介護分野は「カネ」も「ヒト」も不足

団塊の世代が後期高齢者となる超高齢社会の入り口2025年が迫ってきている。こうした中で、社会保障の持続可能性が問われているが、医療介護分野は2つの不足に直面している。

IT投資の初期コストが医療機関には負担となっている
(※写真はイメージです。写真=iStock.com/Casarsa)

1つ目の不足は「カネ」である。既に、国民医療費は40兆円を超え、医療の高度化と高齢化から、今後も増加が見込まれている。特に75歳以上の後期高齢者医療保険制度は、その財源の9割以上を現役世代の保険料と税金でまかなっており、このまま手をこまねいては、現役世代は負担に耐え切れなくなってしまう。

もう1つの不足は「ヒト」である。2025年から40年までの局面は、生産年齢人口16.6%減少と激減する。介護人員の不足は25年には37万7000人、30年には79万人と予想されており、今後認知症患者が増えるとこの問題は一層深刻になる。

データ利活用はどのような効果があるのか

実は、こうした医療介護をめぐる社会的課題に対する解決のカギの1つとなるのが、医療データの連携、活用とAIなどによる分析、センサー、ロボットなどの技術革新である。

健康管理を行き届かせて医療も発展させ、健康寿命を延ばすことにより、高齢者も生き生きと働き、生活を楽しみ、社会の支え手になってもらうことが期待される。一方、高齢化で心配される医療費増大に対しては、その無駄を削減していく必要があるし、医療現場の働き方改革も実現する必要がある。これらにさまざまな医療関連データの分析や技術革新は効果を発揮する。いくつかの具体例を見ていこう。

呉市の国保はレセプト分析で年間億円単位の医療費を節約

近年患者のレセプト情報、健診情報などを分析して、企業の健康保険組合(健保)や国民健康保険(国保)などの保険者が、加入者の健康増進に向けた行動変容を促し、医療費の管理に取り組む動きが広がっている。

たとえば、広島県呉市の国保が、早くからデータホライゾン社と組み、レセプト分析を活用していることはよく知られている。レセプトを分析することで、生活習慣病の対象者を特定し、重症化予防に向けた受診勧奨、メタボと診断された後の特定健診の受診率引き上げ、重複服薬対象者指導などの取り組みにより、健康増進と医療費の適正化に成果をあげているのだ。

具体的には、糖尿病性腎症等重症化予防プログラム(図表1)により、血糖コントロール目標は対象者の約96.6%が維持改善している(平成26年度)。また、価格の低いジェネリック(後発医薬品)の使用促進で約2億4000万円(平成27年度)、頻回受診者訪問指導で1億4500万円の医療費削減効果があがっている。

呉市の糖尿病性腎症重症化予防事業〔資料=呉市資料(平成29年10月)より引用〕