フリーアドレスでの混乱を実際に経験

たとえば働き方改革のメニューの中に、「フリーアドレス」という施策がある。フリーアドレスは働く場所(アドレス)を自由(フリー)にする施策で、簡単にいえば、社内のどこのデスクで仕事をしてもいいという働き方改革だ。

小笹芳央『モチベーション・ドリブン』(KADOKAWA)

いつも同じデスク、同じ上司や同僚の近隣で働くよりも、いつも違う環境で働くことで新しい同僚とのコミュニケーションが生まれたり、新しいアイデアが生まれやすくなったりするのではないかと期待されている施策である。

また、自分のデスクがないので私物を置くことができず、書類などの保管スペースも限られるため、ペーパーレス化が進むなどのメリットもある。

実は、当社でも実験的に管理本部でフリーアドレスをやってみたことがある。管理本部長だけは指定席を決めたが、あとは約60人全員、フリーアドレスで完全に自由にした。結果、何が起こったか。

組織が大混乱した。上司に相談したくても、どこにいるかがわからない。上司も部下に直接伝えたいことがあっても、どこにいるかわからない。メールを送っても、四六時中見ているわけではないので、なかなか返信がこない。しょうがないので、社内を歩き回って探すことになる。なんというムダだろうか。

トライアルなしに進めるのは危険すぎる

しかも、管理本部というのは、総務や経理、法務など、現場で働く人たちが何かあったときに相談に行くサービスセクションだ。そのサービスセクションの人たちが、社内のどこにいるのかわからないのだから、現場の人たちから不平不満が続出した。

こうして実験は失敗に終わり、10日ほどで管理本部の完全フリーアドレスは即座に中止となった。もしもトライアルをせず、もっと一気に、全社的に「せーの」で始めていたら、元に戻すのに大変な苦労を強いられただろう。今現在、「働き方改革急進派」として施策を推し進めている方々には、トライアルなしに進める危険性を念押ししたい。