「田中まさお」としてマスコミに出る理由

【内田】でも田中先生、裁判ともなれば自分の情報がいろいろと公になりますから、リスクが大きいですよね。覚悟が必要だったのではないでしょうか。

【田中】実は裁判の手続きに着手するまでは、何の抵抗もなかったです。「おかしいことは、おかしい」と、子どもたちは言います。それと同じです。ただ、実際に着手してみてわかったことは、自分の名前を出してしまったら、子どもや学校に迷惑をかけるということです。

マスコミが学校に来たり、裁判を快く思わない人が学校に電話をかけてきたりすれば、自分以外の人にたくさんの迷惑をかけてしまいます。自分の学校に迷惑をかけたくない、保護者や子どもに迷惑をかけたくない。だから今は、裁判の書類には本名を書きますが、マスコミ報道では匿名で「田中まさお」にしてもらっています。

【内田】もし仮に、子どもや保護者、学校への迷惑がかからないとしたらどうでしょう? 自分自身の都合だけを考えた場合です。

【田中】それだったら、名前を出してもぜんぜんかまわない。むしろ名前を出したいくらいです。だって僕、全国に友だちがいるから。本当は、そういう人たちにも、自分が闘っていることを知ってほしいんです。

「次の世代に残してはならない」

【内田】田中先生の裁判の中身については、本当にたくさんのメディアが報じてくれています。他方で僕は、裁判の内容以上に、田中先生が定年間際のタイミングで提訴したことが、とても気になっています。何か強い思いや意図があるのではないか、と。

【田中】けじめなんです。

【内田】けじめ? 区切りということですか。

【田中】僕たちがかつて、個々別々に自主的な判断で、「これは子どもに良い」と言ってやってきた業務が、今は正式な仕事として学校に残ってしまった。しかも、莫大な量で、かつ無賃です。その責任は、僕たちにあるんですよ。とにかく、次の世代に残してはいけないんです。学術的・法律的にはよくわかりません。ただ、無理矢理に仕事をさせられているから、お金は出してよということです。昔は、何をやるべきかを自分で選べたので、もっと自由でした。僕は38年間の教師生活があるから、その違いがわかる。これは定年間近の僕だからこそ言えることなのです。

【内田】教師経験が長いから、自由度が高かった時代から自由度がなく業務量が多い時代への変化がわかる。その責任を感じていらっしゃる。

【田中】はい、だからリセットして、変えていく責任があるんです。