「理想」と「現実」のギャップが浮き彫りに

順風満帆に思われた福井ベンチャーピッチ運営であったが、次第にピッチイベントを継続させる難しさに悩み始めた。

※写真はイメージです(写真=iStock.com/faithiecannoise)

福井ベンチャーピッチ立ち上げ時は、目の前のことで精一杯で、正直言って先のことなどまるで考えていなかった。だが、回を重ねていくうちに、東京のピッチイベントをイメージした「理想」と、地方で開催する「現実」とのギャップが浮き彫りになり、東京のピッチイベントをベンチマークにすることに限界を感じ始めていたのだ。

ピッチイベントといえば、「ベンチャーキャピタルから出資を受ける場」というイメージを持つ人が多い。私も最初は、ピッチイベントさえ立ち上げれば、東京のスタートアップのように、ベンチャーキャピタルから出資を受けて急成長することを望む企業が次々と現れると思い込んでいた。

しかし、実際に運営してみると、現実は違っていた。福井ベンチャーピッチ登壇をきっかけに、金融機関からの資金調達や大企業との事業提携、全国への販路拡大につなげた事例は多数ある一方で、ベンチャーキャピタルから出資を受けた実績だけが極端に少ないのだ。

VCからの出資を見送る「後継ぎベンチャー」

前だけを見ている東京のスタートアップとは対照的に、地方の場合は、家業を継いだ若手経営者が業態を変えてチャレンジする「後継ぎベンチャー」の割合が大きい。先代から受け継いだ会社を守りながらも、従来のやり方から大きく舵を切り、リスクを取って急成長していこうと決断するまでには、乗り越えなければいけないハードルがたくさんある。

ベンチャーキャピタルから出資を受けることで、事業提携先の紹介やハンズオン支援を受けられるメリットなどがある反面、出資者側の意向を反映させる必要があるために今までのような自由経営が難しくなり、会社内部からの反発を受けるリスクが増す。安定志向の経営者仲間から「今のままで十分ではないか」と心配されると、外部を介入させてまで無理してビジネスを大きくする必要はあるのだろうかと、気持ちが揺らぐこともあるだろう。

結果として、ベンチャーキャピタルからの出資の打診を見送り、ピッチ登壇をきっかけに融資枠が広がった金融機関からの資金調達を選択するケースが多いというのが現状だ。