「日本に来たから日本旅館」ではない

部屋には畳の上に低床のベッドが置かれている(撮影=石橋素幸)

西洋型ホテルであれば部屋を一歩出ればそこは公道だ。廊下でも靴を履かなければならないし、女性のゲストは廊下に出るだけのために化粧をしなければならない。しかし、同館はあくまで旅館だから、自分の家にいるのと同じようにすっぴん、着物姿、素足で廊下を歩いたり、お茶の間ラウンジで過ごすことができる。

同社代表の星野佳路は星のや東京を「進化した日本旅館」をめざしたと言っている。

「私たちはホテルの一つのスタイルとして日本旅館を位置付けていきたいと考えています。日本に来たから日本旅館なのではなく、快適でサービスが素晴らしいから日本旅館に泊まるという市場を創造していく。その先には必ず日本旅館が海外の大都市に出ていくチャンスがあるはずです。ニューヨークの道路に日本車が走り、パリの街角に寿司屋があるように、世界の大都市に日本旅館があってもいい時代を創っていきたいという夢を持っています」

旅館独自の企画「めざめの朝稽古」

星のや東京の総支配人・澤田裕一はサービスの特徴について、話してくれた。

「代表の星野は一貫して同じメッセージを伝え続けています。フラットな組織文化、フラットなコミュニケーション、そして、マルチタスクを重要視していることです」

フラットな組織文化とは組織のなかで自由な発想、発言、行動が許容されることをいう。具体的に説明すると、誰もが言いたいことを、言いたい人に、言いたいときに言えることだ。これは簡単なようで、難しい。古い企業、硬直した組織で会議をやるとする。会議では肩書が上の者は自由にしゃべることができるが、新人はただただ拝聴するか、指名してもらうまでは黙って待つしかない。

星のや東京はそういった硬直化した組織ではない。会議では誰もが自由に発言をするし、旅館独自のアクティビティ企画を提案する。たとえば、「めざめの朝稽古」という参加費無料のアクティビティがある。朝の7時になると、フロントと同じ階のスペースで開催されるものだが、参加者は短い木刀を持ち、刀を振りながら呼吸を整える。外国人ゲストだけでなく、日本人にとっても新鮮な体験だ。このほか、お茶を点てる体験などのさまざまなアクティビティはいずれもスタッフが自由に発想して、立案、実施したものだ。