70年代以降に重要な言葉は「市場」だった

今回の検索で用いた単語の選択にあたっては、対となる概念を取り入れることに留意した。組織(organization)と市場(market)はともに、社会にあって人々の協調と競争を引き出す制度にかかわる概念である。

20世紀の初頭以降は、組織――すなわち目的が共有され、指示や命令がはたらく場――への言及が優勢な時期が続いた。しかし1970年代以降になると、市場という組織の外部に広がる場への関心が高まる。

マネジメント(management)と管理(administration)という、人々を動かし、事を成し遂げる方法にかかわる概念についても、1970年代以降になると、より柔軟で、創発性に富んだマネジメントという言葉――この言葉には「飼いならす」という、組織(畜舎)の外にある市場(野生)への対処のニュアンスがある――の使用頻度が高まる。

そして、マーケティング(marketing)、ファイナンス(finance)、会計(accounting)といった各種のビジネスの職能にかかわる言葉を押さえて、戦略(strategy)という、これら職能に横串を指し、変化への反応を統合的に行うことにかかわる言葉の使用頻度が1970年代の前後から急速に高まっていく。

第2期のビジネス・ブームが20世紀中盤の社会にもたらしたのは、近代企業という、機械仕掛けの装置のような巨大組織と、その管理の問題への関心だった。しかし1970年代以降になると、この組織の外側に広がる市場という大海原、そしてそのもとでのビジネスの舵取りにかかわる戦略やマネジメントといった概念が注目を集めるようになっていく。

日本企業が絶頂期の裏側でなにが起きていたか

1970年代の前後。これはどのような時期だったか。日本はこの時期に、高度経済成長を果たし、バブルともいわれる空前の好景気に酔っていた。

一方でこの時期以降、ITを用いた革新的なビジネスモデル、あるいは新しいスタイルで経営を行う企業が続々と登場していく。早くも1965年には、IBMが当時としては画期的だったシステム/360をリリースする。それ以降、大型コンピュータを本格的に導入する動きが、政府や企業で相次ぐ。

1975年にはマイクロソフト、1976年にはアップル、1977年にはオラクルといった企業が誕生する。インターネットの商用利用については、1990年代を待たなければならないが、1980年代には先行して社内ネットワークの利用が本格化していく。

グローバルに見てこの時期は、日本企業の絶頂期だった。「アメリカを追い抜いた」との主張も珍しくなかった。しかしその成果を支えていたのは、ジャパン・クオリティ、すなわち工業製品の高い品質だった。日本企業が優れていたのは、戦略を大胆に組み替えるマネジメント能力ではなく、製品の改善を素早く行い、着実に品質を高めていく組織の管理能力だった。