次の「経済的メリットの撲滅」も一見効果がありそうに見えるが、やはり問題がある。具体的にはふたつの方法がある。「ガイドラインを設定し、違反した場合はブロックする」とその延長線上にある「ブラックリストもしくはホワイトリストの共有」だ。

一田和樹『フェイクニュース 新しい戦略的戦争兵器』(角川新書)

「ガイドラインを設定し、違反した場合はブロックする」方法は、グーグルやフェイスブックなどのプラットフォーム事業者が行う対策だ。各社まだ具体的な実施方法が固まっていないという問題がある。

「ブラックリストもしくはホワイトリストの共有」は、問題となるコンテンツあるいは信頼できるコンテンツを提供しているアカウントの情報を共有する方法だ。グーグル、フェイスブックといったプラットフォーム事業者ならびにOpen Brand Safety(OBS), News Integrity Initiative, Storyful, Sleeping Giantsなどが行っている。

このふたつの方法には、設定したガイドラインに沿うように内容を変えることは難しくないという問題がある。そして、そもそも経済的利益が狙いではない相手=プロパガンダには効果がないといった根本的な問題がある。

3つ目の戦略は、「コンテンツの優先度の引き下げとアカウント停止処分」である。すでに多くのSNSプラットフォーム事業者が実施している。この方法には、本当にコンテンツを正しく評価して判断できるのかという根本的な問題がある。日本では、差別的な発言を行ったツイートを引用し、「このような発言は許せない」とツイートしたアカウントが停止され、元の差別発言を行ったアカウントは停止されないといった事件も起きている。要するに全くちゃんと運用できていない。

SNS事業者による対策は事態改善に役立っていない

米国の非営利メディア団体・ナイト財団が2018年10月4日に公開した研究報告『ツイッター上の虚偽情報、フェイクニュースそして影響作戦(Disinformation, ‘Fake News’ and Influence CampAIgns on Twitter)』によると、ツイッター社のアカウント停止などの措置にもかかわらず、アメリカ大統領選挙後も多数のボットもしくは自動運用アカウントが活動を続けていた。

「ロシアに関係している」と名指しされたアカウント2700件のうち、65件がこの調査に含まれていた(多くのアカウントは影響が少ないため対象とならなかった)が、それ以外にも多数のロシアにつながるアカウントが発見された。これらのアカウントはノーマークということだ。

また、フェイスブックはアジアの一部の国においてフェイクニュースとヘイトの温床になっており、対策を講じているものの完全に後手に回っており効果はあまり現れていない。

つまり今のところ、SNS事業者による対策は事態の改善に役立っていないと考えられる。